5月3日、UBC(ブリティッシュ・コロンビア大学)のチャンセンターで、女優の吉永小百合さんによる原爆詩朗読会が開催された。音楽家、坂本龍一さんのピアノ伴奏とともに語られる言葉は、核兵器のない平和な世界を願う祈りのように会場を満たした。 

 

坂本龍一さん(左)のピアノ演奏をバックに詩を朗読する吉永小百合さん

詩とピアノの美しい共演

 この催しは、UBC日本研究センター、Liu Institute for Global Issues、The Simons Foundationの主催、朝日新聞社他の共催で行われた。会場のテラス・スタジオ・シアターはUBCの学生を中心とした観客でほぼ満席になった。日本研究センターのディレクターであるクリスティーナ・ラフィンさんが開会の挨拶をし、続いてThe Simons Foundation会長のジェニファー・アレン・シモンズさんが核兵器廃絶を訴えるスピーチをおこなった。そして、UBCアジアン・スタディーの学生4人(エルザ・シャネツさん、カズヒコ・イマイさん、カーティス・ハンロンさん、ヘイリー・ブルムさん)が、佐藤紫華子さんの東日本大震災による原発事故の詩4編をそれぞれ英訳し朗読した。

 「カナダにおける『第二楽章』」という公演のタイトルについて、津田塾大学の早川敦子教授が説明。吉永小百合さんは、30年にわたって広島と長崎の原爆詩、福島の原発事故に関する詩の朗読を続けている。『第二楽章〜The Second Movement』というCDもシリーズ化している。続いて、リンゼー・ボッチンフソーさんがUBCの学生を代表してあいさつした後、坂本龍一さんがスピーチをし、武器であろうと電力であろうと核と人間は共存しないということを強く訴えた。

 吉永さんは、『序』(峠三吉)では日本語と英語、『生ましめんかな』(栗原貞子)は英語で、というように変化をつけながら朗読。美智子皇后が英訳をしたという『降りつむ』(永瀬清子)は、UBCのクリエイティブ・ライティングコースを修了したクララ・クマガイさんが英語で、続けて吉永さんが日本語で読んだ。坂本さんのピアノ独奏のあと、福島の詩が読み上げられた。『詩ノ黙礼』(和合亮一)から3編、『ふるさと』(佐藤紫華子)、高校生や小学生が書いた詩2編、そして和合さんの詩2編、どれもクララさんの英語と吉永さんの日本語という順番で朗読された。坂本さんの優しく時に力強いピアノの音で彩られ、吉永さんの表現力豊かな詩の言葉が静かに心に染み入ってくるようだった。

 

学生たちとの交流も

 朗読会のあとはレセプションが開かれた。吉永さんと坂本さんが会場に入ってくると、言葉を交わそうとたくさんの人が集まったが、2人はどの人にも丁寧に受け答えして、サインや写真撮影にも応じていた。

 朗読会に来ていた人たちに感想を聞いた。「2人のコラボがとても良くて感激しました。もっと日本の各地でこういうイベントが活発におこなわれればいいと思います」(岩瀬正幸さん・UBCで教育研究の博士課程)。UBCで日本語を学んでいる学生2人は、「すごく感動しました。最初の言葉からちょっと泣き出してしまいました。『こどもをかえせ』という言葉は意味深いです」(シンシアさん)。「原発が福島の人たちの生活を破壊してしまったことがよくわかり、胸に迫ってきました」(アランさん)。「坂本さんのピアノがゆったりと穏やかなのと、吉永さんの圧倒的な詩の表現のコンビネーションが良かったです。子どもの詩は純粋なだけに胸にぐさりときました」(田尻碧さん・UBCで心理学専攻)。また、会場に来ていた高校生にも話を聞いた。「吉永さんの読み方が本当にその状況にいるようですごく感動しました。坂本さんのピアノが詩とマッチしていいと思いました」(グ・ドンヒョンさん)。「とても深く感動的でした。坂本さんのピアノも体から表現があふれているようで心に響く演奏でした」(ベイリー・アンドリューさん)。「吉永さんの読み方が感情がこもっていて感動しました。広島と福島で起きた大変なことが(この詩の朗読で)伝わってきました」(ミーアン萌那さん)。

(取材 大島多紀子/写真提供 朝日新聞社)

 

公演後、花束を受け取る坂本龍一さんと吉永小百合さん。右端は英訳された詩を読んだクララ・クマガイさん

 

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