在バンクーバー日本国総領事館、サイモンフレーザー大学、カナダ・アジア芸術協会、クワントレンポリテクニック大学共催

3月7日夜、サイモンフレーザー大学(SFU)バンクーバー・キャンパスで、木版画職人デービッド・ブルさんによるデモンストレーションとトークが開催された。

イギリスで生まれ、カナダで育ったブルさん。日本の浮世絵に魅了され、自らその製作に挑むことに。以来30年間、東京を拠点に活動を続けている。

 

作品製作中、会場の参加者との会話を楽しむデービッド・ブルさん

 

和を継承するカナダ人

 会場となったSFUの一室は、浮世絵の研究者や学生、愛好者など55人で埋まった。この夜の主役デービッド・ブルさんの両親も見守っている。

 挨拶のスピーチに立った在バンクーバー日本国総領事館の内田晃主席領事は、「現在、日本人の職人でさえ数少なくなった浮世絵木版画。今晩はカナダ人職人によるものということで、貴重な機会。興味深くご覧いただきたい」と述べた。

 

浮世絵に魅了されて

 ブルさんは5歳の時、家族でイギリスからカナダに移住してきた。学生時代は、体育も美術も苦手で、消去法で行きついたのは音楽への道だった。

 大学卒業後も、フルートをはじめとする楽器の演奏、作曲、指揮、楽器製作など、音楽家として活動。その後、コンピューター領域に従事した。浮世絵を見たのはそんな頃。自然光で見る木版画の色の美しさに魅せられた。「同じようなものを自分で作ってみたい」  

 しかし、場所はカナダ。道具もなければ教えてくれる人もいない。そこで、自ら工夫して道具を作り、独学で木版画に取り組むことに。

 1981年、日本に3カ月滞在。その間、版画職人を訪ねて教えを請い、とりあえず一人で製作できるように仕込んでもらった。日本の道具や紙も手に入れた。

 版木を走る彫刻刀の切れ味、和紙の感触、顔料の柔らかな色調。木版画への情熱はさらに高まった。

 1986年、落ち着いて腕に磨きをかけようと日本に戻った。しかし、幼い子ども二人がいる家族を支えるため、英会話の教師をしたり、木製おもちゃを作り売って生計を立てなければならなかった。

 

ビジネスとして確立・拡張へ

 1989年、ブルさんは最初の大型企画に着手した。それは、江戸中期の浮世絵師・勝川春章が描いた百人一首の作品全ての復刻。一年に10枚ずつ製作し、百枚全てを完成させたのは98年12月。これが日本国内で脚光を浴びた。すると、ブルさんがフルタイムで製作に打ち込めるようにと支援の手が差し伸べられるようになった。

 『摺物アルバム』『四季の美人』『版画玉手箱』『自然の中に心を遊ばせて』など、次々に発表したシリーズは好評で注文が寄せられ、日本のみならず海外への販売にもつながった。  アメリカ人のイラストレーター、ジェット・ヘンリーさんとの『浮世絵ヒーロー』シリーズは、コンピューターゲームの主人公を浮世絵にした新境地だ。

 東京の青梅市にある工房『せせらぎスタジオ』、浅草の店『木版館』では、ブルさんと共に、ベテラン彫師や摺師、見習い、販売品の梱包や配送をするスタッフらが忙しく働いている。

 

「木版画の美しさを伝えたい」

 SFUの会場では、前方の作業台でブルさんが作品の製作を始めた。作業を進めながら会話し、質問を歓迎すると会場に促す。

 作業台左右には3枚ずつ、表裏に絵柄が彫られた6枚の木版が準備されている。一枚ずつ運んで作業台に置き、水を垂らし、ブラシでなで、木版の表面の湿度を調整する。青、緑、赤と、溶いた顔料を木版に塗る。和紙を右下角から几帳面に置き、その上を竹の皮でできた丸いバレンを巧妙に動かしながら押して色を移す。濃い色から薄い色へと、一版ごとに色を重ねる。かなり根気のいる作業だ。

 ブルさんの手元をじっと見つめる参加者。時々、質問が発せられる。版木や和紙の種類、どこで手に入るかなど。山桜の版木、越前奉書と答えるブルさん。これらの生産者の先細りが気になるようだ。そんなことを話しながらも、ブラシや刷毛、バレンをこまめに動かし続ける。

 日本人から、「伝統を守ってくれてありがとう」とよく言われる。でも、自分が好きで楽しくてやっているのだと吐露。

 ようやくできあがった作品を見つめる目。「こんなに美しいものはない。一枚ずつがとても美しい」心に響いた言葉だった。

 この日のイベントに続き、3月9日には、クワントレンポリテクニック大学サレー・キャンパスでブルさんによるワークショップが開催された。版画を学んでいる学生、版画師など50人が参加。技法や用具・顔料などに関し、より専門的な質問がでて盛会であった。

(取材 高橋百合)

 

デービッド・ブルさんのウェブサイト

http://woodblock.com/
http://mokuhankan.com/

 

水とブラシで木版の湿度を調整するデービッド・ブルさん

 

会場に展示されたデービッド・ブルさんの作品

 

会場に展示されたデービッド・ブルさんの作品

 

会場に展示されたデービッド・ブルさんの作品

 

デービッド・ブルさんが会場で完成した作品。表裏に絵柄が彫ってある6枚の木版を使い、順々に色が重ねられた

 

スピーチを行う在バンクーバー日本国総領事館の内田晃主席領事

 

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