「あなたの髪を切りながらお話しましょうか。美容師を取材するには、まずカットを見て頂かないと ね」。確かなセンスと技術を売りにしているヘアーアーティストならではの提案だ。2005年11月に現在の店舗に移転し、新たなスタートを切った Yoshi at endzのYoshi坂上(さかうえ)さん。endz hair studioと場所をシェアしているが、宣伝、経営、そして美容師と、全て一人でこなす。店内はモノトーンをベースとしたスタイリッシュな雰囲気で、笑顔 の素敵なスタッフが明るく迎えてくれる。そんな中でも唯一の日本人で、個性溢れるヘアスタイルのYoshiさんは一際目立つ存在。 英語はお客様のレッスンで習得 バンクーバーに移り住んだのは85年。とにかく日本から飛び出したかった。カナダに来た当初は英語も完璧ではない上に、固定客も少なく苦労したという。 「東京と比べたらカナダは人口が少ないからね」と過去の苦労をみじんも見せず、明るく笑い飛ばすYoshiさん。そのフレンドリーで明るい性格から、英語 は全てお客様との会話から学んだという。そのおかげか、今では日本人よりカナダ人客の方が多いそうだ。 モチベーションの高さに年齢は関係なし 「お客さんは雑誌などで最新の流行をチェックしているからね。美容師がそれに追いつけないようではいけない」と常にアンテナを立て、ニューヨークやロンド ンなど世界各地のヘアーショーにも参加。ロンドンのヴィダルサスーンアカデミーで学んだ経験もある。お客様を喜ばせるために、常に努力は惜しまない。「美 容師とはいえ髪のこと以外にも興味を持たなくては」というYoshiさんは、ヘアーショーやファッションショーはもちろん、美術館にもよく足を運ぶとい う。「美術作品を見たからといって即効性はないけど、そういう目を養うと徐々に品の良さみたいなものをかもし出せる」とYoshiさん談。「同じ景色を見 ても人によって感じ方は様々。1日の過ごし方も同じ。『あぁ、今日も仕事か』ではなく、『今日も頑張るぞ!』と思うことが大事。同じ24時間なら楽しんだ 方がいいでしょ?」と、前向きな姿勢には、聞いているこちらまで元気になれる。 確かな技術の積み重ね 実はメディア関係から脱サラしたYoshiさん。転職理由は、メディアは自分の手に取って見られないが、美容師はお客様の髪を身近に感じることができる からだそうだ。お姉さんが美容師だったということもあり、中学生の時からサロンを手伝い、お客様との会話の技術はこの時に身につけたそう。美容師としての 技術は、ヘアスタイリスト協会の創立会長でもある井上陽平さんの下で学んだ。厳しいことでも有名なこのサロンで、1年目はシャンプーと店の掃除のみ、2年 目はパーマ、3年目はカラー、そして4年目にようやくカットという長い道のりで、辞めていく仲間も多かったという。 他のサロンで働く友人に先を越され、焦りを感じたこともあったがじっと我慢し、ようやく一人前になった頃には驚くほどの技術が身についていた。シャンプー はまるで頭皮と一体化するような柔らかい指さばき。それと同時にツボも適度に刺激し、まるでエステティックサロンにいる様な心地よさ。髪を切られているの を感じない程、静かで滑らかなカット。時折見せる真剣な表情は、まさに妥協を許さないアーティストだ。そして終盤のブローに突入。ドライヤーとブラシ1つ でこんなにも髪につやが出るものなのか。自然でいて、そしてスタイリッシュな髪の流れはどのように出すのかと尋ねると、「髪の流れはカット次第。でも企業 秘密です(笑)」とのこと。カット以外にも、パーマやカラーリングなどももちろんこなすYoshiさん、次回は他のメニューをぜひ試してみたいものだ。 仕事は一期一会。「これが最後だ」と思い、常に全力投球。毎日コツコツきちんと仕事をすることが大事、それはきっと結果として出ると信じているという。 注文にうるさいカナダ人客のリピーターが多いのも、Yoshiさんのその明るい人柄と妥協を許さない確かな技術がある証拠だろう。今後もその元気をもらい に店を訪ねたい。 (取材 宮田智恵)
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