千葉県九十九里町出身の学さんは小学校ではサッカーに明け暮れ、中学校では柔道部。 高校時代は野球部に所属し、抜きんでた運動神経の良さと根性を発揮していた。高校卒業後は自身も苦しんだ怪我や故障から運動する人達を守ることが出来ない のかと、スポーツ・メディカル・トレーナー養成学校へ進学した。 「一般的にはパーソナル・トレーナーという名称で普及している仕事ですが、その上のレベルには解剖学などの専門知識が必要なアスレティック・トレー ナー、そしてそれにプラスして治療やマッサージを施せるメディカル・トレーナーという資格があります。私は学生時代からスポーツ医療に従事したくさんの選 手と一般の方々を診てきました」 バンクーバーに来る前は救急救助隊員として人命救助に当たっていた。6年間の消防業務中は災害現場・病院で人の生死に立ち会う毎日でもあった。命の尊さ を実感した学さんは、もう一度スポーツ医療現場に戻る決意をし、当時から交際していたカナダ人女性(現婚約者)と共に海外進出に踏み切った。 『指圧道』開業と事業提携 移住先のバンクーバーでは日本での医療資格を全てトランスファー出来なかったため、まずShiatsu practorの資格を取得、過去の経験をふまえた指圧師としてノースバンクーバーにThe Way of Shiatsu『指圧道』を1年前に開業した。 実際に筆者は学さんに「頭と顔の指圧トリートメント」をしてもらった。大きくて力強い指先と思いきや、意外に繊細なタッチで凝った部分を揉みほぐしなが ら、筆者の肩凝りや首の故障を的確に指摘し、予防策まで講じてくれた。「自分がこの治療院でしているのは怪我や色々な症状の緩和だけでなく、ご自分ででき る予防を伝授することなんです。例えば肩凝りでいらした方にはその方の肩凝りの原因を究明し、それにあった体操を指導します」患者としては確かに家で体操 などで凝りをほぐすことができたらありがたい。 普段からの予防や怪我した後のリハビリには物理療法が用いられる。学さんのアイディアが取り入れられ商品化され治療院でも販売している「ウルトラ・スポーツ・セラピー・ラップ」(Warm Buddy Co社製・http://www.warmbuddy.com/ultra_products.html)は温熱効果の高い柔らかいパッド。治療中に身体に当ててもらった筆者は血行が良くなって指圧の効果が倍増した気がした。 学さんはカイロプラクターのDr. Shimizu(D.C.)と事業提携を結び、バンクーバーでも治療を行っている。カイロのテクニックを使い体の歪み等を総合的にチェック、指圧とトレー ニングを合わせ早期回復を目指す。また二人で各スポーツ団体や個人へのメディカル・トレーナーとしての活動、キネシオテーピング(自然治癒力を促進させる 伸縮性のあるテープを貼って凝りや痛みを緩和させる)の普及活動も行っている。 また、現在も空いた時間をみつけて柔道を続けており、石川ファミリー柔道クラブとVPJ(バンクーバー・ポリス・柔道クラブ)でボランティアのアシスタ ント兼トレーナーとして柔道指導をしている。石川ファミリー柔道クラブの元道場長は北米唯一の接骨院(日本古来からの独自の従手技術を行使して人体が本来 持つ自然な動きや自己治癒力、そして免疫力の向上を促す)「石川整骨院」の院長。その院長の帰国後の後任に学さんは指名されている。 目指すは2010年カナダ五輪のトレーナー 消防士になる前に、既にプロ・社会人・学生団体の選手のメディカル・トレーナーとしての経験がある学さん。昨年は7月に行なわれた「国際車椅子ラグビー選手権」の開催地バンクーバーで日本代表選手団に、また、12月に台湾で開催された「第13 回世界剣道選手権大会」でもカナダ代表選手団の初トレーナーとして同行した。両大会の感想として「目標である、No Injury(怪我なし)を無事達成できたことを嬉しく思います」と語る。 オリンピックにおいて、カナダでは出場選手が自分でスポンサーやコーチ、トレーナーを見つけなければならないのが現状。「私の『スポーツ選手としての 夢』を選手に託したい気持ちがないといったら嘘になるでしょうが、チャンスがあればカナダ五輪出場選手をトレーナーとしてサポートしていきたいです。そし て、いつかバンクーバーに日本の治療者を集めた総合治療院を作りたいですね」と、これからの抱負を熱く語ってくれた。 (取材 北風かんな)
|