吟を追う尺八と琴の伴奏
半数以上をカナダ人が占めたこの日の観客。冒頭で岡田誠司総領事が「カナダのみなさんに日本の伝統芸能を知っていただきたい」と挨拶した。
詩吟とは漢詩に節をつけて吟するものだが、日本人でも“むずかしい漢字が読めない”など難色を示す人も。『詩吟の夕べ』では作品ごとの英語訳を総領事館職員が読み上げることで、情景を思い浮かべられるような配慮もあった。
尺八、琴、鼓などの伴奏が入ることもあるが、伴奏は吟を追うような形で追いかけていくので、詩吟は基本的にはアカペラともいえる。金の屏風が置かれたステージで山本実さんの尺八、成谷百合子さんの琴が加わり、日本の伝統的な旋律を鑑賞する機会ともなった。
詩吟に合わせて活け花やお点前
詩吟のなかには華道や茶道をテーマにしたものがある。
松口月城の『華道』という短い作品を森本国桜氏(師範)が吟する数分の間に、岡田寧子さんが黄色と白、赤紫色の菊を手際良く活け、その手さばきに観客が注目した。
来加した荒國誠氏(宗家)が吟ずる平池南桑の『茶道吟』に合わせてお点前を披露したのは裏千家バンクーバー淡交会。詩に描かれた描写を見事に実演した。
毛筆で詩を書き、りりしい日舞も
清水久仁子さんは秋田谷国裕氏(師範)が吟する三島中州の『磯浜にて望洋楼に登る』を壁に張られた半紙に毛筆で書いた。
王維(おうい)の『元二の安西に使するを送る』を伊藤国元氏(師範)が吟じ、琴の音を伴奏に、袴姿の西川佳洋師匠がりりしい踊りを披露した。
来加した荒國誠氏は、こういう試みを海外の支部でも行いたいと今後の抱負を述べた。開演前に「詩吟が何かわからなかったけれど来てみた」と話していたカナダ人女性は、初めての日本文化鑑賞について「着物や踊りなど美しかった」と感想を述べた。
『Shigin+』というタイトル通り、詩吟にビジュアル要素が加わっためずらしい企画は成功裏に終わり、観客に日本の伝統芸能が持つ情緒豊かな余韻を残した夜となった。
(取材 ルイーズ阿久沢)