「動いてさむらい、踊ってさむらい」ワークショップ

シアトルでの公演の合間を縫ってバンクーバーを訪れた観世流のシテ方、武田宗典(たけだ むねのり)さんと武田文志(たけだ ふみゆき)さんを迎えてのワークショップ。能について、能における氣の流れを合気道から学ぶ、貼り絵指導の3部構成でおこなわれた。
能のワークショップは、能楽師のお2人による仕舞「八島」から始まった。そして能についての簡単な説明と、小面(こおもて)という若い女性の面と般若の面を紹介した。能の演技独特のすり足での歩行を練習したり、サシコミ、ヒラキ、足を踏みならすという一連の動作に参加者が挑戦。最初は戸惑っていた様子の子供たちも少しずつコツを掴んでいた様子だ。
続いては子供たち自身がダンボールにアルミホイルを貼った刀を作り、能楽師のお2人と侍ごっこ。参加者は1人1人丁寧に指導してもらい、なかなか見事な侍になっていた。見学していたお母さんたちも参加して和気あいあいとした雰囲気となった。さらに、能の謡にもトライ。祝言の謡の短い一節を、子供たちは少し恥ずかしそうにしながらも負けずに取り組んでいた。最後は宗典さんと文志さんによる「殺生石(せっしょうせき)」という仕舞で締めくくられた。
シアトルでも子供及び一般向けのワークショップを何回か経験済みであるが、宗典さんは「バンクーバーでは時間が長く内容も濃いものになったと思います」と言う。子供たちの反応についても「素直に反応してくれるし、進むにつれてどんどんテンションが上がってくるのが分かって楽しかったですね」と語ってくれた。

 

 

能による侍の世界観を紹介

夜の部には100名ほどの観客が訪れた。まず、今回の公演の協賛会社を代表してリステルカナダ副社長の上遠野和彦氏が挨拶をした。公演のオープニングは長刀を持っての勇壮な舞の「船弁慶」。宗典さんによる能についての説明のあと、観客も立ち上がって構えや喜怒哀楽の表現といった基本的な動きを体験した。宗典さんは「能は日本人にとっても分かりやすいものではないですが、海外の人にとってはもっと未知のものだと思います。今回、体で感じてもらえて少しでもご理解を深めてもらえたら、と思い体験型のスタイルにしました」と言う。次に10人ほどのボランティアを募って、侍ごっこがおこなわれた。小さなお子さんや男性も女性も一生懸命取り組む姿が観客の歓声を浴びていた。宗典さんの分かりやすい説明と楽しい雰囲気での進行に、「能は重々しくて難しい」というよりもっと親しみやすいイメージになったことと思う。
後半は能の演目「清経」を宗典さんと文志さんが演じた。話の内容について英語で詳しい説明をしたのは通訳を担当した芳川実紀さん。日本語の解説や謡の内容はテキストが用意されており、非常に分かりやすく工夫がなされていた。最後は、祝言の謡である「高砂」に観客も挑戦した。独特の節回し、音の高低など慣れない人には難しいが、何より能楽師の方の声量には驚きの声が観客席から上がっていた。ワークショップがあったその日のうちにシアトルに戻り公演を引き続きおこなうという宗典さんと文志さんだが、ワークショップ後も観客と親しく交流していた姿も印象的だった。

 

 

(取材 大島多紀子)

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