2018年11月29日 第48号

 この「外から見る日本語」も200回を数えました。2001年から始めたので、間もなく18年になります。当初はこんなに長く続くとは考えてもみませんでした。確かにネタ探しなどいろいろ苦労もありましたが、読者の皆様の多くの反響がとても励みとなり、続けることが出来ました。感謝申し上げます。

 先日バンクーバー新報さんの取材を受け、こんなインタビュー記事を読んだ昔の生徒から「先生、記事読みました。おめでとうございます。また新しいネタを持って学校に行きます」とのメールが入り、思わず笑ってしまった。

 そして彼が持ってきてくれたネタは「土産」に関するもので、先ず、なぜ「土産」が「みやげ」なのか、である。実はこの質問は日本語教師になって30年になるが、何回となく受けている。でもエッセイに書いたことはなかった。この語源はいろいろあり、はっきり分からないのであまり意味がなく、ネタとして取り上げなかった。生徒には、昔から「みやげ」にこの漢字「土産」を使っており、丁寧の「お」をつけて、「お土産」と覚えましょう、と説明してきた。

 でも確かに彼のような上級者は気になる。ここでちょこっと講義を始めた。人は旅に出ると、その土地の「みやげ」を買いたくなる、もちろん個人差もあるが、特に日本人はその気持ちが強い民族であると云われている。この「みやげ」の語源は諸説あり、大昔のことなので、どれが正しいのかはっきり分からない。一説には買うために、いろいろ考えたり、見上げたりするので「みあげ」が「みやげ」になったとの説もあるようで、びっくりしてしまった。

 いずれにせよ、かなり昔から旅先で買う品物を「みやげ」と呼ぶようになった。土産(どさん)の意味は文字通り、その土地の産物である。そして室町時代以降らしいが、「みやげ」に土地の産物であるこの「土産」を当て字として使い始めたとのこと。とても歴史を感じる言葉だよ、と説明した。

 すると彼はすかさず、日本語は奥が深い言語ですが、この「お土産」に関しては英語のほうが奥が深いと思います。英語では「souvenir」 と「gift」や「present」に分けていますが、日本語は同じですよね、ですから「友達にお土産を買います」これを英語に訳すとき、困ります。うーん、なるほど。でもそんなこと文脈から簡単に判断できるし、「手土産」という言葉もあるよと説明したが、確かに日本語は同じ「お土産」であり、分かりにくい。

 さらに「先生、5月に日本に行かれましたね、ぜひ土産話を聞かせてください」である。この「土産話」という言葉、とても便利で、恰好いいです。英語に訳したら「みやげ」の雰囲気など出ません、やはり日本語は奥が深くて、大好きです。なるほど、確かに日本人は見送りのとき、「土産話待ってるよ」などとよく使っている。

 そして最後に彼曰く「つまらないネタですが…」である。思わず笑ってしまった。以前、日本人はどうして物をあげるとき、「つまらない物ですが…」と言うのか質問した本人である。彼の日本語、すごく上達した。今回は見事に一本取られた。完敗である。でも、うれしい完敗に乾杯した。

 

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