2016年7月28日 第31号
先日、日本の年配の方から「結構」の漢字の語源を尋ねられた。確かにそんなこと知っている日本人は少ないと思う。私もサラリーマン時代には「結構」の語源など考えたこともなかったが、日本語教師になって生徒から質問されたことを思い出した。
この「結構」は日ごろ結構使う言葉だが、なぜこんな漢字を使うのか、と質問されて答えられず、困ってしまった。調べてみると、この「結構」という言葉は家などを建てるときの表現とのこと。驚きである。
確かに「結」は紐で結ぶことであり、「構」は木などを構えること。しっかりと紐で結んで、木をうまく構えて念入りに作り上げる、が語源である。なるほど。
そして、文章などの構成にも使われるようになり、さらに拡大されて、「結構」は念入りに作り上げた結果のすばらしさを評価する「ほめ言葉」として使われるようになったとのこと。さらになるほどである。
日本語教育において、この「結構」を教えるのは結構難しい。我々日本人はこの「結構」をいろいろな場面でうまく使い分けている。例えば、くだもの屋での会話として、「これ結構なメロンね」「奥さん、いかがですか」「でも今日はお金が無いから結構よ」「お金なんかいつでも結構ですよ」。日本人にとってこんな会話は容易に理解できるが、日本語学習者にしてみれば「結構」ってどんな意味なのか、目を白黒させてしまう。
この「結構」は本来、ほめ言葉であるから「すばらしい」や「満足」などの丁寧な表現として用いられてきた。「お味のほういかがですか」「大変結構です」や「結構なお住まいですね」などであるが、やはり丁寧な表現なので、何となくかしこまった雰囲気を出したい場合に使う。
そして本来の「結構です」から少し意味が広がった使い方として上記の「お金はいつでも結構ですよ」である。これはいわゆる「大丈夫・OK」の丁寧な言い方であり、これも大変親しい間柄では使わないが、相手に好意などを示したい場合にはよく用いられる。例えばお客さんなどに「少しぐらい遅れても結構ですよ」など。
さらにこの「結構です」は断る場合にも使われるのでややこしいが、これも「満足ですよ」や「十分ですよ」のような意味から、「辞退する」や「要らない」などのような場合にも使われるようになったとのこと。これに関しては日本人も勘違いする場面もあり、日本語のあいまいな表現の代表例になっている。確かにやっかいであるが、面白さもある。
例えば「ワイン、いかがですか」に対して「結構です」だけだと分かりにくい。「いえ、結構です」のように「いえ」や「もう」をつけると断る表現になり、「結構ですね」と「ね」などが付くと、お願いの表現になる。もちろん言い方や顔の表情などでも判断できるが、生徒にとってはややこしい。
このようにこの「結構」は昔から、どんどんいろいろな意味を持つようになり、日本語教師としては大変である。「結構」を教えるのは、もう結構です。
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