2018年3月8日 第10号

 鬼畜米英と言われた時代に青春を過ごされた伊賀さんがなぜ英語に興味をもたれて、戦後、カナダの大学まで来られたのかが、僕の個人的な関心事でもあった。氏のエッセイを読めば、太平洋戦争前に、米国ハワイから数々のパールハーバーの情報を送っていた海軍少尉吉川氏と同郷であり、個人的に面識があったことのようにも思える。伊賀氏のエッセイの中に「ある夏休みに吉川氏が帰省の際、父の頼みを心よく引き受けて、彼の自宅で、私(伊賀氏)に英会話と剣道を教えて下さった。これが生まれて初めての英語会話のレッスンであった。」とある。

 真珠湾の日本軍の攻撃前の当時、『燃える怒涛』によれば、吉川氏と思える人物西川武男が次のように日本に打電している。「一、六日午後、真珠湾在泊艦船左の通り、戦艦9隻、ほぼ二列にA地区に繋留、軽巡三、潜水母艦3隻駆逐艦十七、C区にあり、他に軽巡四、駆ニ入集中。ニ、艦隊に異常の空気を認めず。臨戦集備態勢にあらず。」などとハワイから打電をしている。この時、日本軍の機動部隊は真珠湾の北方二百六十マイルの海上にあり、空母赤城の艦橋で懐中電灯で西川からの情報を確かめあったとある。

 本書によれば、多くの歴史家はパールハーバー攻撃以前に、日本軍による攻撃があることを米国は察知していたという。面白いのは、西川の情報からすれば、南の島経由で、日本の機動部隊が南の海からハワイ島にやって来ると米国が想定していたことである。そのためか、米軍の海上演習は南の海で行われていた。したがって北から来る日本の機動部隊空母4隻は、米軍と遭遇する機会がないように思われ、攻撃成功の確信を日本は高め、12月2日にハワイ攻撃の電信「新高山登れ」が発信されるのである。

 今の時代も、追い詰められた北朝鮮がミサイルを発射するとすれば、グアムか沖縄近海であろうか? 米国本土の直接攻撃は考え難いように思える。アメリカは西部劇の決闘のように、相手が拳銃に手をかける瞬間を待っているようにも見えなくも無い。本書の注釈に「今まで(米国)はイギリスやメキシコやスペインのどの戦いにも最初に手をださず、敵に第一撃をうたせてから立ち上がった」とある。この西川と同一人物と思われる海軍の吉川少尉と奇遇にも面識がある伊賀氏に、僕は古きよき時代の面影を感じるのである。小生の父親の親しい知人に陸軍幼年学校出身のかたがいた。父より一回り年が下で、伊賀氏と近いお歳で、戦争には行かれなかったと思うが、父はこの方を高く評価していたように思う。

 かつて、陸軍幼年学校は、軍人の英才教育の場であり、文武両道の教育で、きわめて優れた人材を育てていたように思われる。司馬さんの本の中に、金剛山麓の大阪陸軍幼年学校出身の職場の同僚の話がある。「私は古い記憶を見つめている。その時のきみは士官学校(カデット)そのままだった。カデットというのは、ヨーロッパの共通語で原義はたとえばドイツの農村貴族(ユーカン)の場合で言うと、本家の子ではなく次男もしくは分家の子という意味らしかった。ナポレオン以前ドイツ、イギリスで軍隊が編成される場合、貴族を代表し領内の若者をひきいて戦場へゆく。それが制度化されて士官学校が創設されても、カデットという言葉がのこった。初対面のS氏は、生きて呼吸をする絵のようなナポレオン以前のカデットのように思われた。(中略)私は当時、ほんの数年前まで軍隊にいて、それも非カデットの将校たちの優秀さに辟易した経験をもっていた。」とある。

 さらに、『燃える怒涛』の最後にある松永市郎氏の解説の中にも兵学校の話がある。「兵学校の教育は、上級生から受ける躾教育と教官から受ける学問的教育と大別された。兵学校に入校すると、生徒隊のある分隊に編入される。分隊は一学年から四学年までの四十名で編成されていた。分隊の共同生活には、寝具の整頓とか、下着の洗濯など個人生活の面もあるが、その外に共通業務がある。この共通業務は隊務と称して、新入生に課せられた。隊務は、清掃用具の乾燥、整頓、散り箱のちり捨てなど、頭を使うとか熟練を要することではなかった。このような単純な作業だが、目まぐるしい日課の中で、隊務を完遂することは、頭で考える程、容易なことではなかった。」

 小生も18歳から、一年間、農業の専門学校で全寮制の生活をした。朝、6時の起床点呼で全員の確認をして一日が始まり、午前は講義を受け、昼からは農業実習、時には大型トラクターの分解、組み立ての実習も経験したのは貴重な体験であったと懐かしく思い返している日々である。

 


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