2017年1月26日 第4号
西部邁ゼミナールのなかで、終戦後にマッカーサーへ50万通の手紙が日本中からあったという話があり、漫画家の黒鉄(クロガネ・ヒロシ)さんが、それは落城の心理で、日本人の特性かもしれないという。
そのことは、武士の時代である鎌倉時代から、争乱により、日本では支配者がかわるたびに領民は、それに順応していった歴史の繰り返しが何度もあり、太平洋戦争に負けてアメリカの占領時代になっても同じことであったということであろう。
最近、日本史観をしるしたドイツ人クルト・ジンガー著『三種の神器』を読むと、その中に聖徳太子の「十七条の憲法」があり「和を以って貴しとなす。さからうことなきを宗となす。ひとみな党ありて、さとれるものは少なし。是を以って、あるいは君父にしたがわずして、また、隣里にしたがう。しかれども、上和ぎ、下睦びて、ことを論らうにかなうときは、すなわち、事理おのずからに通う。なにごとか成らざん」とある。日本人は昔から支配者に反抗するよりも「和」を尊ぶことを望んだという話を僕は読み、戦後の新しい支配者に抵抗しない多くの日本人の心のあり方を理解した思いがしたのである。
さらに、本書「霧に閉ざされた文化」の中には次のようにある。「日常生活の細部を束縛する共同体の絆が強すぎ、自分の法外な要求に対抗するために生まれた、東洋民族特有の反応たる個人の逃避本能のなせるわざだろうか。これらの東洋民族(中国、日本、アジアの民族)は、生きとし生けるものを曖昧さの庇護のもとに包み込みながら、自然の英知に近づいているのだろうか?生命はあまりどぎつい光の中や尽きることのない議論の中では育たない」
急激な環境の変化は生きる者の生存をおびやかす。生きるには環境に順応するのに時間がかかるということであろうか?急激な人工知能の進歩とか、新しい通信技術とか、遺伝子の組み換えにより、天才やより強い子供をつくることに人類はついてゆけるのか?また、それは多くの人に幸せをもたらすのか?IPS細胞でノーベル賞をもらっった山中教授が「アメリカには多くの視野を持った研究者がいるが、日本は専門的」といわれることには、共感を覚える。
「日本人は知的な努力をつづけたり、努力の方向を変えて、考え方や感情、目標や規範をあれこれいじりながら、修正したりつくりなおすことを煩わしいと感じる」
「ヨーロッパ人の人の心は戦場のようなもので、過去の遺産たるあらゆる霊的、知的な力が毎日悲劇的な戦いを繰り返す。これはカタラウスの戦いでフン族の西進を阻止して戦死した戦士たちが毎夜、生き返って戦争をつづけるとのゲルマンの伝説を連想させる。ー この国(日本)の民族は、ギリシャのへラクレイトスの『戦いは万物の父である』という説を信じない」
以上は、クルト・ジンガーの考えであるが、正月の大学ラグビーをTVで見ながら、同じような感想を持った。この決勝戦はまさに体と体がぶつかり合う、すさまじい戦いのスポーツ戦ではあったが、戦いが終われば相手を称えあうことは、ジンガーの言うところの「人格とは、人間と運命、精神と物質、個人と環境、霊魂と誘惑、創造主と混沌のかぎりない闘争のなかで、鍛えあげられるものである」ということであろう。
「日本人はのっぴきならない断固とした挑戦には応じたりしない。辛抱強く我慢するか、厳しい決定を一瞬のうちに受け入れる」。議論とか言いわけはないのであるまいか?規定時間を超えた長時間労働は、その延長線上にあるようにも思える。デフレの中で、給料を下げずに経営を継続するのは、過重労働による賃金の切り下げであったようにも思える。その中で、日本大手広告会社の、未来のある若手女子社員の自殺は痛ましいことであった。「なみなみならぬ先見の明、独創力、建設力、企業心にあるのではなく、なみなみならぬ辛抱、忍耐酷使の容認にある」
次回は第三章自然のるつぼからです。
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