2016年12月1日 第49号

   一.

 米国の大統領選挙でトランプ氏が予想をくつがえして大統領に決まり、その公約によりTPP(環太平洋戦略的経済連帯協定)から米国が離脱するという。

 40年以上も前のことであるが、貿易の自由化により、米の自由化が問題となったことがある。その当時、まだ20代であった小生が書いた論文がある。今頃読むと、いささか恥ずかしく、ばかばかしい思いもするが、40年たった今でも通用するのではないかと思えてくる。自画自賛ではあるが、その一部を紹介するのも、また面白いのではと思うのである。

 

 『(農業における)近代経営』

 この論文は、私自身の将来における農業の経営方法を論ずることが主題であるが、これからの農業を展望する時、全体感に立って考えることが必要であると強く感じ、世界的視野で農業を、最後に自己の経営を論じたいと思う。

 このようにマクロな問題からミクロな問題へ進むことは、主題である自己の経営が、現状と遠くかけ離れたものになると推察できる。しかし、今日における目まぐるしい農業技術の進歩が、そのギャップを解決していくものと私は確信している。

 

 世界の動き

 米国のアポロ11号の壮挙以後、「地球人の自覚」という言葉がクローズアップされた。これは人間同士の争いをやめて平和な世界を望む声だと私は考える。

 かえりみるに、19世紀のヨーロッパに独占資本主義が発達し、ついで20世紀始め共産主義が台頭しはじめた。資本主義は人間の自由な創造性を基盤として生産をおこなった。経済面においてはアダム・スミスの「見えざる手」による需要、供給のバランスを信じた。しかし、1925年に恐慌が米国におこり、世界的なものへと波及していった。この時、ケインズにより計画経済が提唱された。以後、資本主義社会に計画経済が導入されるようになった。

 一方、共産国では消滅するはずの「利潤」を導入し生産を上げている。

 アポロ11号の月への着陸を一つの因として、平和を望む市民運動が益々活発になった時、自由主義、共産主義両陣営共に平和な社会の建設に努力するであろう。そして、両体制の良い点を持った混合経済が台頭するのではないかと思われる。

 ここで特に注目したいのは、混合経済の中に計画経済が含まれている点である。なぜならそこに、国あるいは世界の将来の計画が示されるからである。

 私達が農業を行う場合、この将来の計画に添って行くことが安定した経営につながるものと思うのである。

 

 世界農業の動き(自由貿易)

 安定した経営を展開するために、私は自己の身近にある情報を分析をして、自分なりに将来の世界農業の動向を述べてみたい。

 世界の連帯意識が強くなるにともなって、低開発国への援助が増大するものと考えられる。現に、日本は先のアジア、アフリカ閣僚会議で、多額の援助を約束している。それも必然的な時代の流れといえよう。なぜならば、一番アジアに密接な関係にある日本が先進国の中で一番少額な援助(国家予算の5%)しか出していないからである。

 さて、低開発国に援助されたお金は何に使われるのであろうか?農業より生産性の高い工業を増やす事によって農民を吸収して、その国内の生産性を上げることが、元来、考えられてきた。しかし、最近は、「鉄より米」という政策に変化しつつある。

 1968年9月14日付けの毎日新聞の「動くアジア」という記事は、「近代プラントを導入して国の近代化と思うのは大きな錯覚である。それは単に経済的化粧に過ぎない。あるいは政治家の見栄といってもいい。生産プラントを導入して失業者を吸収するというが、国際競争力に耐える工場は人手を必要としない。それは逆に土着の工業をつぶして、失業者をつくることになりかねない。東アジアにおいて現実にもっと必要なものは、食料ー特に米の確保である。東南アジアのどの国においても、まず「農業に回帰」することから国造りのスタートを切らねばならない」と述べている。

(次回に続く)

 


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