2018年1月11日 第2号
天皇誕生祝賀会に行った。総領事のお話に始まり、会場全体がまるで日本人会の様になっていた。特にびっくりしたのは、会場の周りにグルーっと和食レストランのカウンターが出て、各店の品が食べられたのだ。焼き肉あり、串焼き、あぶり寿司にデザートまであった。美味しい数百年の歴史を持つ通円さんのお茶。感心したのは、お茶は飲みやすい温度にしっかり調えられて「ほうじ茶」「煎茶」「玄米茶」と入れて下さった。有り難いねぇ。
あるテーブルに人が集まり賑やかそうだから老婆は行ってみた。サンタクロース風のお爺さんの肩に手をかけながら話しているのはゴードン門田さん。一人、間をおいて元気に話すのは新渡戸稲造の話を新報に書いている日本語の先生だ。その日本語の先生が老婆に言った。「○○○に出てきてくださいよ」。老婆が彼の場所を聞くと「BCハイドロのビルですよ」と言った。傍にいた門田さんが日本語の先生へ「そのビルはね、泥棒が入るそうですよ」と言った。とたんに老婆は「ふーん、そうかぁ、日本語の先生の住むビルは泥棒が入るビルなのかぁ、そりゃなんとかしないとねぇ」と内心思った。ところがこのお爺さん連中、なんだか嬉しそうにまた楽しそうにケラケラ笑っている。「BCハイドロ」の「泥」をもじって門田氏が「泥棒が入る」と言ったのだと気がついた。老婆が門田氏に「私はね、そういうことをエッセイに書くのです」と言ったら、目までつぶって大笑いしていらした。いつだったかその日本語の先生の講演があった。老婆は行けなかったが友人が行き、帰って来た彼女の報告。「あのねぇ、参加者数が少ないので席をまとめて皆で話し合えるようにしたの、そして、先生の話は楽しくって行ってよかったわよ!それからね、会が終わり近くなって、先生の友人サンタクロース紳士が入って来たの。その2人の会話、それは面白かった!」と漫才を聞いた後の様に面白い、楽しい、良かったと彼女は繰り返す。
老婆は笑顔が大好きだ。だから笑顔のあるところには自然に近寄って行く。相手が歓迎しているかどうかはあまり気にしない。そして、あの人たちねぇ、皆元気で長寿なのは、きっと年がら年中ああやって笑ってばかりいるからなのよねぇ。ふっと老婆は「厳しい人生をしっかり乗り越えた人たちの素晴らしい『今』を見せつけられた一瞬だ」と思った。
そして、老婆は昨夜、「○○会で女性企業家協会の仲間の一人が○○○で表彰される」と言うので、表彰式とクリスマスをかけたパーティーに出席させてもらう。会場にはまた総領事ご夫妻もいらして気持ち良く記念写真にも加わって下さったり、表彰状が渡される寸前になると、難聴老婆にも聞こえる、会場全体に響く変な音楽(?)ひぃーひぃーすぅーふぅーと音がして、表彰が始まり、でもあの妙な音が面白くて、会場のあちこちで、音がするとくすくすと笑いが起こる。また隣席の小柄な女社長、皆の会話を難聴老女に説明した。その内容は「あのねぇ、この間の天皇誕生祝賀会で領事館は子供を招待したみたい、と誰かが言ってね、他の人が『それって新報の社長のこと?』って聞いた人がいるのですって。だってね、昔さ、パトロールカーに追われて横道に曲がって停止したらさ、子供運転と間違われたみたい。お巡りさん本当に困ったみたいだったよ。わははっは!それからね、酷いんだよ、いつだったかさぁ、集合写真のときね、写真屋さんが私に『そこの人立って下さい、立ってください』っていうのよねぇ。私つま先で立っていたよー」。
本当に和やかな表彰式とパーティーだった。このバンクーバーって凄い人が集まっているのだと思わずにはいられない。仕事、家庭、人間関係でいろいろ問題が起き、それを乗り越えて、それらを全部気づきに変え、人生を歩み、心の純度を上げていく。純粋になっていくほど、愛情深くなり、自分の使命に気付き、その人生の彩りが豊かになっていく。老婆はそんな輝く人達をしっかりみながら思った。「ああ、いつになっても学び、学び、そして、学びなのだぁ…」。
○○○会のパーティー終了時、席を立つ老婆に帰宅のトランスポーテーションをにこやかに心配し、声をかけて下さった方は3人もいた。なんとありがたい事だ。
許 澄子