2017年12月14日 第50号

 来月80歳になる、片足を切断した姉がいる。そして彼女は会う度に「足がないのに足があった感じで痛むのよねぇ」とよく言っていた。老婆が2001年脳卒中で両手麻痺になった時、両手は動かない、石をぶら下げたように重く肩からぶら下がり、動かそうとするとセメントで固められたようで動かない。あの感覚ってそうなった人以外分からないだろう。だから姉が「足がないのに足があった感じで痛みを感じる」と言うのも本当だろう。そして私は姉が可哀想に思えた。

 あれから、もう10数年経った。この11月、久しぶりに彼女を訪ねた。まぁ元気だった。83歳。その昔、大恋愛して結婚した義兄と2人で住んでいる。一緒にいる間中笑っていた。とにかく、その場は明るくて、楽しい。義兄が用意したテイクアウトの寿司とお茶だけの夕食だが笑いが絶えない。姉の、びっしり荷物に埋まった部屋を見て、老婆はこんな川柳を思い出した。「これ大事 あれも大事と ゴミの部屋」。そして、姉が自分の作品をバザーに寄付すると言うと、「ボランティア するもされるも 高齢者」。彼らと会話中に、楽しい川柳が次々と思い出されてきた。そして、ゆったりと楽しく話し、聞くわが身、「角がとれ 丸くなるのは 背中だけ」。

 食べ終わってかたづけようとした。すると、横にいた姉はさーっと両手をついて立ち上がりこう言った。「大丈夫よ、私はね、何でもできる限り自分でやることにしているのよ」。そう言って茶ぶ台の上をさーっとかたづけた。客室は大きなちゃぶ台を中心に、壁に沿って座っていて、ちょうど手の届く高さに、なんだか荷物がズラーっと、部屋中に重ねて置いてある。なんだろうと思っているうちに、姉が次々と包みを開けて見せてくれる。「わー、これは素晴らしい!」どの包みの中からも美しい編み物作品が出てくる、出てくる。セーターがあり、帽子、手袋、靴下、ハンドバッグ、マフラー、レース編みのいろいろ。あらゆるものが色とりどりに作られ、それぞれの包みに綺麗に収まっているのだ。あまりの美しさに「これもくれる?」「あれもくれる?」とお願いし、もらい受け、老婆の手持ちバッグいっぱいになった。カナダから日本へ行く時、老婆は暑がりだから、コートを着て行かなかった。しかし、日本でも時々寒い日があった。そこで、姉に貰ったあずき色のカーディガンを着た。「あー暖かい」。

 12月3日、カナダへ帰国時、老婆はまたそのカーディガンを着ていた。入国管理局で出国検査の列に並んでいると、後ろの白人のお婆さんが私のカーディガンの袖をさわりながら、こう言った。「綺麗に編んでありますねぇ、あなたが編んだの?」「いいえ、私の姉が編みました」「そうですかぁ、素晴らしい!」と褒めた。それよりなにより、とにかく、そのカーディガンの暖かいのが嬉しい。難聴の老婆は、片足姉の温かい心に包まれ帰国した。

許 澄子

 

 

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