2016年9月8日 第37号
ある時、友人の勧めで『アガスティアの葉』という本を読んだ。3000年前に印度の聖人アガスティアが、将来自分を訪ねて来る世界中の人の運勢をヤシの葉に書き残したものである。随分不思議なことだと思ったが、その時点でまさか自分がインドまでその『アガスティアの葉』に書かれた占いを見てもらいに行くとは思わなかった。
2001年夏、卒中と体内出血。命は取り止め、体内には新生児大の血塊が残り、大きなお腹。開腹手術なし。更に両手マヒがあり、秋にはかなり麻痺が回復始めたが、生きるのが面倒になる。そして、死ぬならインドの『アガスティアの葉』で占ってもらってからと決心。11月に南インドの占い場所へ一人で行った。バンガロールの飛行場からタクシーで2時間、運転手と値段交渉してその町へ行く。アシュラムに着くと今日の占いは終わり、明日9時からだという。
結局、一晩その町に宿し、空港から私を連れてきたタクシー運転手も車中に泊まった。
翌朝アシュラムへ着き、門内に入ると、まあ大勢の人が地面に座り順番待ちをしている。私は外国人と分かるので幸い別室に案内された。そこでも1〜2時間は待つ。同室の数人にどこから来たか聞くと、スリランカ、シンガポール、マレーシアなどからわざわざ来ていると分かった。やがて、見料150USドル(5500ルピー)を支払い、一枚の小さな紙きれを渡され、名前だけを書き、指紋を押すように言われ、個室に入る。白い服を着た眼光の鋭い、しかし優しい感じの40歳前後の髭男と若い2人の助手がいた。
椅子に座ると助手が10cm厚さの長細いカラカラに干した葉っぱの束を持って入って来た。そして、録音テープもセットされ、髭男は「これから自分がいうことが正しければ「YES」間違いなら「NO」と答えるように指示。聞かれることは、例えば「私は女です―YES」、「私は印度人です―NO」といった具合だ。最初は何を言われても皆間違いで、95%「NO」だった。すぐにその葉束を持ち去り、次の葉束が来る、質問がある、持ち去る、また質問、と繰り返して4回目になると、ほとんどが「YES」になってくる。つまりそれが3000年前に書かれた私の運勢なのだ。
髭男が、「貴方の母親の名はTSUYA(ツヤ)」「父親の名はMITARU(ミタル)」「夫の名はヘンリー、死亡」と言った。夫は1年前に亡くなっていた。母の名前も正解である。父はミタルでなく「満(ミツル)」である。髭男に間違いを言うと、「みたる」と「みつる」の違いくらいはいくらでもある、と言われた。突然、彼は私に「You cheated!」と叫ぶ。びっくりして、私がいつ、何をチート、だましたのかと聞くと「前世で」と言った。
更に質問すると、前世で私は4人姉妹弟で、皆をだまし、親の全財産を取った人だから、今世で貴方は親からなにももらえないと言った。これには驚いた。本当に、自分は現世で姉妹弟の4人で1999年に親を亡くし、遺産相続で私は僅かの遺留分だけ相続し、弟は地下1階地上5階の商業ビルを、妹はコンクリート3階建てのマンション、姉は都心にある駐車場を、また軽井沢の山小屋も3人で相続していた。理由は日本を捨てて出た人にあげる必要がないということだった。
とにかく、髭男に私は遺産を受け取れないと言われ、驚いたが、と同時に不思議なことだが、酷く恨みに思っていた不当な遺産相続に何となく諦めがついたのだ。馬鹿な! と言う人もいるけれど、前世で自分が本当に彼らをだましたのなら、今世でそれを返すことができて良かったとさえ思えたのだ。
「カルマ返し」とも言う。そして、次に髭男が、「貴方は心配ない。立派に不動産で、老後豊かに生活できるようになり、チャリティーやボランティアもする」。そして、「Lot lot Lo〜t of Expenditure」と言った。「エクスペンディチュアー」の意味がインドなまりの英語で分からず、何回も聞きなおすと、いきなりテーブルをバーンと叩いて「SHUPPI」と怒鳴った。一瞬、また分からなかったが自分で「SHUPPI」と言ってみると、なんと「出費」である。彼は日本語で「エクスぺンディチュアー」の分からない私に「出費」と教えてくれたのだ。私は印度カレンダーの82〜83歳までの命で、「Oh! You have no next life!」と言い、更に「あなたは70歳末に何か物を書く」とも言った。内心私は、髭男が遠くから来た私に何か希望を待たせてあげようと「物を書く人」と言うおまけを添えてくれたと思った。元来、全く物を書くなど考えたこともない自分だから。しかし最近、隔週で、『老婆のひとりごと』を書き始めた。
気が付くと何と今私は77歳、70歳の後半ではないか!
許 澄子