2018年3月15日 第11号
気がつけばもう3月。2月下旬に降った雪もすっかり消えて、春の空気が漂う今日この頃。昨年の春以来、鉢に放っておいた水仙も芽を出し、日毎に大きくなってきました。 前回に引き続き、今回も、薬が保険でカバーされない理由を一つ一つ説明して参ります。
③ 免責金額(Deductible)
薬剤費を負担する公的保険の代表格であるFair Pharmacareプランでは、2年前の世帯収入に応じて設定される免責金額に到達するまでは、全額が自己負担となります。英語で「You haven't reached your deductile yet」とか、「Your deductible is not satisfied yet」と言われたら、このことを指しています。この免責金額は、世帯の収入に基づいた非常にプライベートな情報であるため、患者さん本人以外に公表されることはありません。つまり、この特定の情報については、薬剤師も分かり兼ねますので、Pharmacareに直接電話で問い合わせをする必要があります(Lower Mainlandからは604-683-7151、その他の地域からは1-800-663-7100)。もう一つの選択肢として、オンラインの「Fair PharmaCare Calculator」(http://www.health.gov.bc.ca/pharmacare/plani/calculator/calculator.html)があり、ここにnet income 等の情報を入力することで、大体の免責金額を知ることができます。会社や個人で加入する民間保険(Extended care plan)においては、プランと契約内容によっては免責金額の有無や大小は様々です。ご自身の民間保険の免責金額を覚えておくと大体の薬代が予想できるので便利です。
④「ベネフィット」な薬?
医師の処方する全ての薬がカバーされるわけではありません。公的保険や民間保険が適用されるのは、「ベネフィット」と呼ばれるフォーミュラリー収載薬のみです。カタカナが増えて少し分かりづらいかもしれませんが、日本語でベネフィットは「保険適用」、フォーミュラリーは「薬価基準収載品目リスト」に対応します。なぜこれが日本人として分かりづらいかというと、日本ではほとんどの薬が保険適用されるのに対して、BC州のFair Pharmacareでは保険の適用されない薬「ノン・ベネフィット」の薬が非常に多いためです。しかし、「ノン・ベネフィット」の薬には例外的な保険適用が存在し、これは「スペシャルオーソリティ」と呼ばれます。スペシャルオーソリティは処方医が政府に対して申請するもので、一旦承認されると、本来「ノン・ベネフィット」の薬が、「ベネフィット」の薬となり、保険が適用されるようになります。簡単な例でいうと、アンジオテンシン変換酵素阻害薬というグループの血圧を下げる薬にラミプリル(成分名)(ベネフィット)という薬がありますが、空咳という副作用が起こることがあります。そこで医師は、作用機序の少し異なるアンジオテンシンII受容体拮抗薬というグループの、ロサルタン(losartan)という薬に変更すると、この薬はノン・ベネフィットであるため保険適用されません。ところが、医師がスペシャルオーソリティを申請し、承認されることでベネフィットとなり、保険が適用されるという流れになります。
一番簡単に保険適用の可否を知る方法は、薬剤師に質問することです。収入の限られた患者さんに、高額のノン・ベネフィットが処方され、医師にスペシャルオーソリティの申請をリクエストしたり、薬の変更を提案したりするのは薬剤師の日常業務です。一つだけ注意ですが、ノン・ベネフィットの薬全てにスペシャルオーソリティが適用される訳ではありません。スペシャルオーソリティが適用されない、どう頑張っても公費負担だけでは全額自己負担となる薬も多く存在します。このような薬があまりに高額な場合には、医師と相談して、安価な代替薬を模索することとなります。また、民間保険に関しても、Fair Pharmacareのスペシャルオーソリティとほぼ同様の手続きが存在しますので、ご不明な点がありましたら、薬剤師にご相談ください。
(続く)
佐藤厚
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。
2008年よりLondon Drugs (Gibsons)勤務。
2014年、旅行医学の国際認定(CTH)を取得し、現在薬局内でトラベルクリニックを担当。
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)。