2019年1月31日 第5号
つい先日、 カナダの「食生活ガイド」 が一新されました。2007年以来、久しぶりに更新された新しいガイドラインは、健康に良い食事に重点が置かれています。
まず、それまでの「四大栄養素」の分類による食品の摂取に代わり、お皿の上に何をどのくらい盛り合わせるかで、適当な摂取量を具体的に示しています。お皿の半分に「野菜」や「果物」、残りの4分の1ずつが、「タンパク質」と「炭水化物」という盛りつけ方になっています。
特に、「タンパク質」については、心臓疾患、糖尿病および一部の癌の予防にも繋がることから、動物性タンパク質ばかりでなく、豆類や豆腐製品を含む植物性タンパク質の摂取を奨励しています。「炭水化物」は、全粒の物、あるいは全粒粉で作られた物を摂り、塩分や糖分、脂肪の含有量が多い加工食品を控えることも奨励しています。以前は「果物」に分類されていたジュース(天然果汁100%の果汁飲料)は、他の清涼飲料水と同じく、糖分の多い飲み物と見なされるため、「果物」の分類から外されています。
加えて、何を食べるかだけでなく、どのように食べるかにも言及されています。加工食品に頼らず、推奨されている食材を使って手作りし、できた料理を誰かと一緒に食べること、ゆっくりと味わって食べること、のべつ幕無しに食べないこと、食べ過ぎないことも、健康に良い食べ方としています。
しかし、作った料理を誰かと一緒に食べるという選択肢のない人もいます。例えば、一人暮らしをしていると、必然的にひとりで食事をすること、つまり「孤食」が多くなります。「孤食」とは、文字通り、ひとりで食事をすることですが、特に、食事の際に孤独を感じてしまうような状況を意味します。高齢社会では、高齢者の単身世帯が増加していることからも、特に高齢世代の 「孤食」が多いことがわかっています。この「孤食」が、高齢者の低栄養に関連があるのではないかと指摘されています。
高齢者が低栄養状態に陥る原因は、消化・吸収力の低下や、咀嚼力、嚥下力の衰えといった身体的な理由だけでなく、食事の回数や食事量の減少、栄養の偏った食事など、食事の仕方が理由となっている場合があります。特に、ひとりで暮らしていると、一人分の料理をすることが億劫になり、食事の内容が乏しくなったり、量が減ったりするうち、食べる意欲が薄れてしまうこともあります。さらに、足腰が弱くなった、近くに買い物ができる店舗がないなどの理由から、簡単に食材を買いに行けない場合もあります。その結果として、栄養が足りず、低栄養状態に陥ると考えられています。
低栄養は、さまざまな健康上のトラブルを招きます。年を取り、筋肉や骨量が減ることは避けられません。十分な栄養、特に「タンパク質」の摂取量が足りないと、必要以上に筋肉量が減少します。そのため、転倒や骨折をしやすくなり、入院を余儀なくされることもあります。また、免疫力の低下にもつながり、感染症にかかりやすくなることや、ケガが治りにくくなるだけでなく、ロコモティブ症候群などの運動器の障害のリスクを高めます。病状が回復しないまま寝たきりになる可能性もあります。
また、低栄養により、認知症のリスクも高まると考えられています。脳のエネルギー源は「ブドウ糖」で、「炭水化物」や砂糖などの糖質が消化されて生成されます。「ブドウ糖」は、脳に溜めておくことができないため、常に一定量を脳に供給し続けなくてはなりません。低栄養の状態では、「ブドウ糖」の供給が足りず、脳がエネルギー不足になり、それが認知機能低下の原因のひとつとして、認知症に繋がると考えられています。
高齢だから量はそれほど食べなくても良い、年を取れば食が細くなるのが当たり前、と思っていませんか。実は、このような考えが、低栄養を助長している可能性があります。健康で長生きするためには、高齢になっても、いえ、高齢だからこそ、栄養のある食事をすることが重要です。
ガーリック康子 プロフィール
本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定