2018年8月16日 第33号

 米ワシントン州シアトル空港から10日、乗客を乗せていない旅客機が管制塔の許可なく離陸、海岸沿いを南下しながらアクロバットに近い飛行を行うなどし、約1時間後に空港から40キロメートルほど南西にある、ほとんど無人の小島に墜落した。

 事件が起きたのは、同日午後8時過ぎ。ホライズン航空の76人乗り双発旅客機、ボンバルディア製Q400を無許可で操縦したのは、同社の地上係員リチャード・ラッセル容疑者(29歳)。同社での勤務歴約3年半のラッセル容疑者は、駐機している飛行機の牽引のほか、冬場に機体に着いた霜を除去する作業や荷物の積み下ろしを担当していた。この飛行機には、同容疑者以外誰も乗っていなかった。

 同容疑者が盗み出した飛行機は、ブリティッシュ・コロンビア州ビクトリア空港から到着して、その日の運行を終了、ゲートから離れた貨物・整備エリアに駐機されていた。

 ラッセル容疑者は牽引車を運転して飛行機の向きを180度変え、滑走路につながる誘導路に出やすいようにした後、エンジンを始動し滑走路へ向け移動を開始した。FBI(米連邦捜査局)などは、飛行機免許を取得していないラッセル容疑者が、どうやって飛行機を操縦する技術を身につけたのか、調査している。

 なお民間の小型機以外、ほとんどの航空機には自動車のような鍵はなく、複雑な手順ではあるものの、十分な知識と始動方法を経験・習得していれば、エンジン始動は誰でもできる。

 離陸後、ラッセル容疑者は航空管制官と交信を続けている。普段と同じ落ち着いた口調で、飛行機を人口密集地から避けようと誘導する管制官。ラッセル容疑者の、着陸がうまくいったら自分はパイロットとして採用してもらえるだろうかという問いに対しても、うまくできたら、きっと仕事を与えてくれるだろうと返答、近くに軍の空港があることを伝え着陸を促していた。しかし同容疑者は、しばらく飛び続けたいと、これを拒否している。

 またラッセル容疑者は、アクロバット飛行の一つ、バレル・ロールを試すと言い、実際にこれを行っている。この様子は、地上で目撃していた人が携帯電話で動画撮影している。しかし、旅客機はアクロバット飛行ができる設計ではない上、同容疑者も適切な操縦でこれを行わなかったため、飛行機は急激に高度を失い、最後は海面すれすれまで降下している。

 管制官との交信の中でラッセル容疑者は、自分のしたことで、これまで世話になってきた多くの人を失望させてしまうことを謝ったり、地上に戻って捕まったら終身刑だろうかと心配したりしていた。その一方で、自分のことを頭のねじが2〜3本ゆるんだ『壊れた男』だとも形容している。

 ラッセル容疑者が離陸した2〜3分後には、オレゴン州ポートランドの州兵空軍基地から緊急発進した戦闘機2機が、この飛行機の追尾を開始した。しかし攻撃はせず、旅客機が人口密集地に向かわないよう、警戒していた。

 飛行中、ラッセル容疑者は管制官に対し、燃料の減りが思った以上に早いことを何度か伝えている。やがて管制室では同型機の現役パイロットが交信に加わり、ラッセル容疑者に対し必要な操縦方法を伝え、何とか飛行機を着陸させるよう努力していたが、同容疑者は着陸する意思がないような返答をしていた。

 そして離陸から約1時間後、飛行機は人口20人足らずのケトロン島の森に墜落炎上、ラッセル容疑者の死亡も確認された。

 

 

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