2018年7月26日 第30号
ジャスティン・トルドー首相は18日、内閣改造による新内閣を発表した。5人が新たに閣僚入り。今回は、担当省が代わった大臣はいるが、閣僚から外れた大臣はいなかった。
来年10月に実施される総選挙まで残り15カ月となるこの時期の内閣改造は、選挙対策内閣となった。
重視したのは、アメリカとの経済関係、国内の州政府との調和、2019年選挙対策。
アメリカとの関係では、アメリカに偏る輸出先を多角化するための大臣2人を任命した。一人はジム・カー前天然資源大臣。国際貿易省を国際貿易多様化省と名称を変更し、多様化をより鮮明にした。もう一人は、新設省で初閣僚入りを果たしたメアリー・エング中小企業・輸出振興大臣。中小企業の輸出振興を手助けする。トルドー政権初の中国系大臣。アメリカに頼り過ぎた貿易がトランプ大統領の采配によって顕著になった貿易問題の緩和を図る。カナダは輸出の75パーセントがアメリカとなっている。
国内の州政府との調和の任命を受けたのは、ドミニク・ルブラン前漁業海洋兼カナダ沿岸警備隊大臣。新設された政府間関係・国内貿易に、北方問題の担当も加え、自由党政権が推進する全国規模の政策実行に向け各州との交渉役を担う。
特に国内では、州政府で保守派政権が勢力を増している。これまでのサスカチワン、マニトバ州政府に加え、今年6月の選挙ではオンタリオ州で進歩保守党政権が誕生した。自由党政権が来年1月から実施する炭素税導入反対でサスカチワンと歩調を合わせる。さらにアルバータ州、ケベック州での選挙を控え、保守党色が強くなる傾向が地方で相次いでいる。
もう一つの国内対策パイプライン関連では、ルブラン大臣の後任にブリティッシュ・コロンビア(BC)州ノースバンクーバー選挙区ジョナサン・ウィルキンソン氏が漁業海洋・カナダ沿岸警備隊大臣に就任した。BC州で反対活動が続くトランスマウンテン・パイプライン拡張工事計画への対策と、BC州での議席確保の両方を目的としている。パイプライン反対派は、輸送オイルサンド量が3倍に増加するといわれる拡張工事でオイル漏れが起こる可能性が高くなり、海洋汚染が深刻化することなどを理由に反対活動を続けている。パイプラインターミナルがあるバーナビー市は、ウィルキンソン大臣の選挙区からタンカーが航行する湾を挟んで向かい側にある。
2019年選挙対策には、オンタリオ州、ケベック州出身議員を多用した。新設された高齢者大臣に就任したフィロメナ・タッシ氏は、オンタリオ州ハミルトン選挙区。ハミルトンといえば、トランプ政権が実施した鉄鋼・アルミニウム関税引き上げで最も打撃を受ける鉄の町。その他、エング中小企業・輸出振興大臣もオンタリオ州出身。
ケベック州出身で初閣僚入りを果たしたのは、パブロ・ロドリゲスカナダ民族遺産・多文化主義大臣。ケベック州のメラニー・ジョリーカナダ民族遺産大臣は観光大臣、公用語・仏語圏諸国連合大臣を担当する。フランソワフィリップ・シャンパーニュ前国際貿易大臣はインフラ・地域社会大臣に移り、ケベック州での活動に重心を置く。
選挙対策とパイプライン対策では、アルバータ州のアマルジート・ソーヒ前インフラ・地域社会大臣が天然資源大臣を担当。保守党が強いアルバータ州での議席確保と、トランスマウンテン・パイプライン拡張工事対策を兼ねる。
そして最も注目されたのが、新設された国境警備・組織犯罪削減大臣を担当するビル・ブレアー氏。元トロント市警長官を務めたブレアー大臣は2015年に初当選。以降、マリファナの合法化の促進などで大臣以上の活動をしていた。それが今回は、アメリカとの国境沿いで増加しているアメリカからの非合法な難民希望者の対策や、組織犯罪の減少を目的とする省を担当する。ブレアー大臣もオンタリオ州選出。
これでカナダ政府は34大臣となり、トルドー前内閣の29から5人増加。男女比は17対17で男女平等を保っている。
トルドー首相はオタワでの就任式終了後の記者会見で、国内で地方政府の状況が変化していると語り、それでも「環境問題にしても、移民政策にしても、国家安全にしても、国民との公約を実行するための強い姿勢を示さなければならない」と述べた。