2018年3月1日 第9号
連邦自由党政権が2月27日、予算案を発表した。今年度も含めた6年で215億ドルの支出には、女性の社会進出を促すための予算と、先住民族の生活水準の向上と社会進出、科学事業への支援、サイバーセキュリティ問題、環境保護、育児支援、薬物中毒問題などが盛り込まれた。
一方で、アメリカのトランプ政権が実施すると提案している法人税引き下げに呼応するためのビジネス界が期待していた税制は盛り込まれなかった。
また新民主党(NDP)が推進している全国規模の薬局プログラムについては、検討するとしたものの、今回の予算案には予算が付かなかった。
今年のテーマは女性と先住民族。女性の社会進出と雇用を促進し、女性と男性の賃金格差の是正を図ることにより、女性がより活躍できる社会を目指す。その一環として、男性の育児休暇を促進。男性も5週間の育児休暇を取ることができる。これには同性愛パートナー、養子の場合も含まれる。また女性の起業家支援や輸出事業支援も盛り込まれた。女性関連には約12億ドルの予算が当てられた。
先住民族支援については、住宅やライフラインの設備の改善といった基本的な生活水準の改善と、先住民族の人々が、より社会進出できるような支援を盛り込んだ。
女性と先住民族の社会進出については、今後ベビーブーマーと言われる世代が定年し労働市場から離れていく中、その穴埋めとしての労働人口の安定化に向け、女性と先住民族の労働市場への参入は欠かせないとの見方を専門家は示している。しかし、現実は同様の労働条件下でも女性の給与が男性より少なかったり、育児で仕事を離れたことにより給与が引き下げられたり、また子供を預けられず女性が職場復帰できないなど、さまざまな要因で女性の社会進出が妨げられている。今回の予算案ではそこに焦点を当て、「女性を支援する」を強調した予算案となった。
しかし専門家や評論家には、今回の予算案では不十分と言う声が多く聞かれている。特にデイケアシステムの改善が予算に組み込まれていない点が指摘されている。出産、育児で職場を離れた女性にとって、デイケア不足による負担が最も職場復帰を妨げているという。デイケアの充実が女性の職場復帰に最も効果的と指摘し、今回の予算案では、これがほとんど実現していないと多くの専門家が指摘した。
女性の雇用を促す一環として、今回の予算案では科学事業の充実に390億ドルが盛り込まれた。科学分野での女性の進出を促すと説明している。
ビル・モルノー財務相は、「人々のための予算案」と国会で紹介し、堅調なカナダ経済を維持しつつ、女性の社会進出を促進することで、将来的により強固なカナダ経済を実現できると語った。
野党は、今回の予算案に大きく反発している。野党第一党保守党アンドリュー・シェア党首は、今回も赤字予算で借金が増加し将来に大きな負担を残すことになると批判。2019年度には黒字予算を目指すとしていた公約から大きく外れていると語り、予算案に反対することを公言した。
NDPジャクミード・シング党首は、全国的な薬局制度に全く予算をつけていないことやデイケアの充実が図られていないと主張。住宅問題にしても2年後に解決する予算案では、現在厳しい状況にある国民には何の助けにもならないと批判した。これらは若者を苦しめる結果になるとも語っている。
評論家の多くが今回の予算案は来年実施される連邦選挙に向けての予算案で、2019年から実施されるものも多い。自由党が選挙に勝つための政策が多く盛り込まれていると語っている。