2017年10月12日 第41号
エナジー・イースト・パイプライン建設計画の中止が明らかになった。トランスカナダ社は計画していた総事業費157億ドルの同パイプライン計画を撤回すると5日発表した。
理由はパイプラインや石油を取り巻く「環境の変化」と説明。建設を計画した当初から原油価格が大幅に下落したことや環境対策の変更などを理由にあげたが、総合的に判断して採算が合わないためと特定の直接的な要因は明らかにしなかった。
エナジー・イースト・パイプライン建設計画は、アルバータ州のオイルサンドをカナダ東海岸ニューブランズウィック州まで運び、同州の精製所で処理するか、海外市場へと輸出するためのパイプラインを建設するプロジェクト。既存の約3千キロメートルある天然ガス用パイプラインに新たに約1500キロメートルのパイプラインをつなぎ、完成すれば1日110万バレルを運ぶ予定になっていた。
しかし、パイプラインはカナダを横断するように延び、アルバータ州、もしくはサスカチワン州のオイルサンドがマニトバ、オンタリオ、ケベックと各州をまたがって通ることから、通り道の州では反対派が強硬に計画撤廃を主張していた。特にケベック州ではモントリオール市デニス・コデール市長が先頭に立って反対していた。
今回の撤回について、コデール市長は「我々の勝利」と勝利宣言のような発言をして撤回を称賛した。環境活動家や先住民族からも同様の声が上がった。
一方、アルバータ州レイチェル・ノッテリー州首相は「非常に残念」との声明を発表。またニューブランズウィック州ブライアン・ガラント州首相も残念な結果と語ったが、両州首相とも連邦政府を責めることはなかった。
しかしアルバータ州野党・連合保守党は連邦政府の責任は大きいと非難した。また連邦野党保守党も連邦政府の環境対策強化が結果的に撤退を引き起こし、カナダの雇用と経済に大きな打撃を与えることになったと批判した。サスカチワン州ブラッド・ウォール州首相も連邦政府のカナダ西部軽視と批判した。
連邦政府は環境対策強化を進めている。天然資源産業はカナダの主要産業だが、環境対策免除というわけではない。先月カナダエネルギー庁(NEB)は対策基準を強化し、パイプライン建設承認へのハードルが上がった。
しかしジャスティン・トルドー首相やジム・カー天然資源相は、今回の撤回はトランスカナダ社の経営上の決定であって、環境対策が直接の要因ではないと反論した。
同パイプライン建設計画が発表されたのは2013年。当時の原油価格は90米ドルを超えていた。しかし2014年に原油価格が急落。現在は当時の約半分に下落している。さらにカナダのオイルサンド開発費用が高いうえ、将来的にはオイルサンドの生産は減少されることが予想されていて、専門家の間では採算が合わないと判断したのだろうとの見方が強い。実際に、計画が発表された当初から実行される可能性が低いのでは、との見方もあった。この日の撤退発表後も同社の株価はほとんど変わっていない。
今回のトランスカナダ社の撤退は、残りのパイプライン計画に影響する可能性がある。そのうちの一つ、最も注目されているのがアルバータ州からブリティッシュ・コロンビア(BC)州バーナビー市までのキンダーモーガン社のトランス・マウンテンパイプライン拡張工事計画。
昨年11月には連邦政府が、続いてBC州自由党前政権が同計画を承認した。しかし、計画段階から環境保護団体や先住民族のほか、バンクーバー市やバーナビー市が強硬に反対。さらに今年になり、あらゆる手段を使って同パイプライン計画を中止すると公約していた新民主党(NDP)にBC州政権が交代し、先月には提訴した。同パイプライン建設計画は今年9月に工事が再開されるはずだったが、ほとんど進んでいない。
同計画は、現在のパイプラインに沿って拡張する計画で、完成すれば輸送量が3倍に増加し、バーナビーからアジア市場に向けて輸出される。
カナダは、これまでアメリカ一国に頼っていたオイルサンドの輸出先を多方面に拡張しようと海外輸出用のパイプライン計画を模索しているが、実際にはうまくいっていない。トランス・マウンテンは連邦政府が唯一承認した計画で、アルバータ州からBC州北西部へのノーザン・ゲートウェイ・パイプライン計画は、環境問題の観点から撤回した。エナジーイーストはそれに代わる計画として期待されたが、結局、企業側が今回撤退を決定した。
今後トランス・マウンテン計画に、どう動くのか。拡大するアジア市場への窓口として期待されている計画に注目が集まっている。