2016年11月24日 第48号

 オンタリオ州トロントの地下鉄に、11日朝乗り合わせていたサルマ・ハミディさんが、車内で見かけたカナダらしい光景をメディアに紹介した。

 ハミディさんは、乗り込んできた乗客が座るなり、頭を抱えて困惑している様子を目撃した。朝の通勤時間ということもあり、最初は彼に気をとめるような人はいなかったが、何分かするとまわりの人が声をかけ始めた。

 最初は、強いロシア語なまりの男性が大丈夫かと問いかけた。それに対しこの男性は、ひどい頭痛に見舞われている上に、これから始まる仕事の面接に遅れそうだと答えた。

 それを耳にしたハミディさんは、持ち合わせていた鎮痛剤を彼に与えた。彼は喜んで受け取ったものの、飲むための水がなかったため、後で飲むと伝えた。すると、近くにいたヒジャブに身を包んだイスラム教の女性がすかさず、子供のために用意していたテトラパックのジュースを差し出した。自分のものになるはずだったジュースが、見ず知らずの男性に渡されてしまったため、その子供は少し不服そうな顔をしていたが、とハミディさんは付け加えていた。

 この男性はまわりの人の好意に感謝するとともに、自分はしばらく仕事に就いていなかったため、面接に対して緊張していたと話し始めた。

 最初のロシア語なまりの男性は、自信を持って面接に臨めば大丈夫、ただその髪型は何とかしたほうが良いとアドバイス。すると今度はアジア系の10代の女性が、ヘアゴムを差し出した。

 その後も、まわりの乗客らによる面接のアドバイスは彼の降車駅に着くまで続き、皆が彼の成功を祈って送り出した。

 この光景を自身のフェイスブックに書き込んだハミディさんは、「これこそカナダならではの経験」とコメントしている。居合わせた人すべてが、見ず知らずの人に対しても快く接するその光景は全く違和感なく自然に発生したとハミディさん。この国の人すべてが、かつては移民だったことがその理由なのだろうと、彼女は付け加えていた。

 

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