2016年10月27日 第44号

 カナダと欧州連合(EU)で協議が進んでいる自由貿易協定(CETA)が今月27日の署名を前に待ったがかかった。

 カナダとEUの最終署名には、EU28カ国全ての合意が必要となっている。しかし署名を直前にしてベルギー南部ワロン地域が反対を決定。欧州の健康・環境基準に影響を与える可能性やカナダからの牛肉・豚肉の輸入が、この地域への産業に打撃を与えるのでは、などの懸念を理由としている。ベルギーでは地方議会の承認なしに重要な国際協定に国として合意できない。そのため、他の27カ国で合意されているものの協定署名に待ったがかかった。

 ワロン地域首府ナミュールでワロン地域リュディ・デュモット首相と会談に臨んでいたカナダのクリスティア・フリーランド国際貿易相は20日、これ以上の話し合いをしても進展しないとして説得を打ち切った。その直後には記者団に対し、「カナダ側としてはやることはやった。あとは欧州側の問題」と述べ、カナダのように欧州の価値観を共有し、忍耐強く交渉に臨む国と経済協定を結べないのでは欧州側に問題があると語った。

 欧州議会マルティン・シュルツ議長は21日夜、フリーランド国際貿易相と翌日にも話し合いの場を設けると語り、交渉決裂回避に向け努力することを強調した。ベルギーのシャルル・ミシェル首相はジャスティン・トルドー首相と電話で会談したと21日に記者団に述べ、今後もワロン地域と交渉を続け合意に向け努力すると語った。

 CETAは保守党前政権が進めていた交渉で、昨年11月に自由党が政権をとって以降も引き続き合意に向け欧州連合との話を続けていた。今回のフリーランド国際貿易相が話し合いを打ち切り帰国したことについて、国内では野党保守党が無責任と批判。保守党時代も約5年交渉を続けてきたとして粘り強く交渉するのが大臣としての務めと責めた。

 欧州側でも今回のワロン地域での反対で交渉が暗礁に乗り上げていることに懸念を示している。EUはカナダ以外にもアメリカや日本とも同様の協定合意を模索しているが、カナダとの合意失敗がこれらの国々との交渉にも影響するとみている。EUはイギリスが脱退を決めたことで自由貿易協定への影響がある中、欧州の移民問題など、すでに将来の自由協定締結に不安があるとされている。

 それにもかかわらず人口約350万人の地方議会での反対が、欧州では年間170億米ドル、カナダにも120億米ドルの経済効果をもたらすという協定を失敗に終わらす可能性があることは歓迎されていない。

 カナダにとって現在アメリカに過度に依存している輸出先からの脱却に欧州市場は大きな魅力。アメリカ大統領選の行方によっては変更も余儀なくされる可能性がある北米自由貿易協定(NAFTA)や、合意に難題を抱えている環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)などを見据え、欧州とのCETA締結は大きな意味を持つ。

 24日には欧州理事会ドナルド・トゥスク議長がトルドー首相に連絡を取ったとされ、首相事務所によると欧州でも27日の署名に向けて努力しているという。しかし25日にはシュルツ議長が、27日の署名は難しいだろうとドイツのラジオ局のインタビューで語ったとロイター電子版は伝えている。

 フリーランド国際貿易相は24日、27日署名のためにトルドー首相と共に欧州に行くことを期待していると語っている。

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。