寂しさと楽しみの狭間で

 街はクリスマスのデコレーションやイルミネーションがちらつき始め、師走らしい高揚感を覚えるこの頃ですが、ジングルベルの音は同時に、私たちのバンクーバー生活のカウントダウンベルとなっています。「親子留学」もゴール手前。娘たちもそのことを知っていて、「お友達と離れちゃうのが寂しい」と泣きそうになってみたり、「早くお父ちゃんに会いたい」と目を輝かせてみたり、今と未来への思いに揺れているようです。
 生まれて6年の間に5回の引っ越しを経験している娘たち(町内での小移動を入れると7回)。二度の海外転勤に加え、親子留学前にも仲良しのお友達との別れを経験しています。以前との違いは、今回は「引っ越しするよ」とあらかじめ娘たちに伝えていること。期間限定でカナダに来ていること、何をしに、そして帰国がいつなのかということを隠さず話題にしています。
 5歳児というものは本来、今日を生きる生き物。明日のために我慢したり、未来のために準備したりということはあまりありません。けれどもやはり「期限」を意識することは気持ちの整理をつけやすいようです。「悲しいけれど、楽しみもある」。以前は私が明るい新生活のイメージを描けるよう導いていましたが、今は娘たち自身で帰国後の楽しみを数え上げ、心の平安をコントロールしているかのようです。
 数年前、転勤先で親子共に仲良くしてもらった友達とはその後、再会する機会は持てていません。連絡もなくなり、「やっぱり去る者日々に疎しだなぁ。あんなに一緒にいたのに」と思い出しては「距離」の悲しさを感じたものですが、いい時間を共に過ごした相手とは後に何らかの形で(私の場合はSNSや年賀状で)コミュニケーションする機会が必ず訪れ、やはりお互いに忘れてはいないのだと安心したりします。だから娘たちもきっとわかっているでしょう。「離れ離れになっても、ずっとお友達」と。

最初は好きじゃなかった?

 そして私も今、二つの両極端の思いで胸が一杯になっています。まずはバンクーバーを去りがたい気持ち。娘たちのキンダーは軌道に乗り、担任の先生は能力と人格共に申し分なくクラスの居心地もよく、数々のイベントを楽しみ、充実この上ないといった状況です。私自身もようやくやっと自由時間を得られ、バンクーバーをどんどん好きになり始めています。
 正直なところ、最初の頃はバンクーバーを好きとは言い切れませんでした。カナダ到着直後の夢うつつ期間が過ぎて、いざ日常生活となるとそう簡単に事が運ばない状況が多々ありました。プリスクール選びや家探しといったビッグプランは割合トントン進むのですが、もっと日常の小さなことで一難去ってまた一難……。バンクーバーがどんなに美しい街でも目に映るのはあくまで私の「心象風景」ですから、美しい街だとなおさら心の中とのギャップが際立ち、残酷に感じられたりするものです。今は心象風景が実物を上回るくらいかな。幸運にも、ずっと近くで暮らして時々会ったりしたいなと思う友達が何人かでき、バンクーバーを「もう一つの故郷」に変えそうな引力で私を離れがたくさせます。
 そんな感傷の一方で、新生活へのトキメキも感じています。目下取り組んでいるのは、お正月休みの計画であり東京都内の家探しであり小学校や習い事のリサーチであり就活のためのあれこれです。しばらくぶりの夫との暮らしはどうなるんだろう、小学校の宿題など娘たちも忙しくなるだろな、こんなふうにゆっくり空を眺めることなんてあるのかなと期待と覚悟の入り混じった気持ちで。先の見えない中に手探りで突っ込んでいく感じが好きなのでしょう。
 心はざわざわ落ちつきませんが、そろそろダウンタウンのサンタクロースパレードに向けて出発しようと思います。ではまた。

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2013年12月05日 第49号 掲載

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