今年の春先、深夜に寝つけない悪いクセが出て、庭先に出た。
私が住むペンダー・ハーバーの小島、フランシス・ペニンスラは音もなく静まり返っておぼろ月に照らされた木立ちも、そよりとも動かない。
時刻は本来なら寝入っていなければならない午前二時。

庭先に立ってタバコに火をつけて空を見上げた。満天の星だった。その時、小島に隣接する本土(東方)の上空に星とは違う光る物体を見た。
サンシャイン・コーストに添うように低い山があるものの、せいぜい四百メートル前後の丘と呼んでもよい高地である。
海岸からおそらく一、二キロのその山の上に極めて強い瞬く光を発しながら、ジグザクに飛び廻る二つか三つの物体だった。

はじめは寝不足がつづいて自分の目がおかしいのではないかと思った。
しかし双眼鏡を持ち出してその動く光を落ちついて眺めてみたら、やっぱり星とは違う。
瞬く星は少ない。なのに星の三〜四倍の強い光は全く不規則な大胆な動き方をしながら絶えずグリーンと赤と白のフラッシュ・ライトを発しながら舞っている。
もしかしたら…と思いながら、その晩は寝床に戻った。
今年のB・C州の沿岸添いは春から夏にスイッチするタイミ
ングを逸してしまったように雨期が長びいた。
六月になっても雨が残って、もしかしたらUFOでは…と思った「光る飛び廻る」物体のことは忘れていた。
八月になって、ようやくカナダ・サンシャイン・コーストらしい天候が戻ってきた。

相変わらず夜中の二時、三時に目が覚めて眠れない八月の
ある晩、あのピカピカ光りなが
ら舞うように動きまわる物体を思い出して外に出た。
方位は微妙にズレていたものの、その光る物体は数を増し
ている。
どうやら病みつきになってきた。あえてUFOとは云わないけれど、確認できない飛行物体には違いない。
U N I D E N T I F I E D
FLYING OBJECT(未確認飛行物体)と呼ぶしか云いようが無い。
世間では、UFOが存在するとかしないとか、あるいは気球が上がって移動していてそれをUFOと見間違えているとか、はたまた宇宙人の存在まで論議を拡げる人がいるけれど、私は元より科学的な知識はないし、そこまで云い争うつもりは毛頭ない。 
唯、この年まで生きてきてど
う考えても、この光を発する物
体に納得がゆかないだけの事である。

九月に入ってもサンシャイン・
コーストの晴天が続いている。
夜中の三時頃、ジャケットを羽織って外に出るのが日課になってしまった。
その光る物体は一度も私を裏切らないで相変らず本土上空、二千メートルあたりで毎晩活動している。
一つの光る物体が動き廻る範囲は私が見る限り、上下、左右、
斜め…とおよそ一キロ四方のように見える。私がいつも目を皿のようにして見ている、およそ三十分間は、それぞれの光る物
体の移動範囲が限られているように見える。

九月の中頃、とうとう自分の目の錯覚ではない事を確かめ
たくて朝の四時に家族を起して
真っ暗な外に連れ出した。
半信半疑で眠い目をこすりながら四人の人間の目で確かめ
た。
サンシャイン・コーストのロー
カル、それも不便な漁山村だから日頃、劇場で華やかなショ
ウを簡単に見せてやれない罪ほろぼしでもある。
彼等は寝呆ろけまなこで暗い東の空を仰いだ。
その晩は七個の鋭い光を発する物体がかなり派手に活動?している。
一体なんだろう?!結論はそれ
だけだったが、私の狂言ではな
いことだけは立証された。
物体と物体の間の距離はおよそ2KMから3KM。昼間双眼鏡で何度見ても人工的な構築物は何も見当らない地上二千メートルの空間である。 
フト、うしろを振り返ったら
西の上空、おそらくマラスピナ海峡の辺りと思われる海上二千
メートルにやっぱり光り輝やく
物体が一個ある。計八個、今夜は大盤振る舞いである。まるで
私が住む周囲八キロの小島がU
FOに囲まれてしまったよう。

一体、七つも八つもの忙しない動きをするこの物体は何をしているんだろう。疑問は深まるばかりだけれど、それ以上は何も解らず手もでない。
写真を撮ったら妙な光る物体が撮っていた。(コラム中央の
写真。露光6秒)
カナダの空軍の本部にでも行って調べて貰いたい気持は山々だけれど下手な英語でレロ
レロ云ってると「司令官!ゲートのところに馬鹿が来て訳の解
らないことを…」などと云われて身柄を拘束されそう。
しかし気になって寝られない。明日の朝も多分、三時起き
になりそう。なんだか朝から忙しくなって睡眠不足…。


2012年9月27日号(#39)にて掲載

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