日系フィシャーマンゆかりの地、スティーブストンの住宅が並ぶ静かな一角にあるスティーブストン合同教会。今回はこの教会内にある、リッチモンド日本語学院の幼児科クラスを訪れました。

●あいさつが正しく言えるように
土曜日の朝、幼児科クラスを覗くと、子どもたちが筆に絵の具をつけて、紙に何かを描いていました。夢中になっているその姿は、まさに小さなアーティスト。想像力も豊かです。この日は風邪で休んでいる子もいて、児童3人に大島利子先生とボランティアのお母さん。だからこじんまりした雰囲気の中で、目も行き届いています。
「鉛筆もまだ満足にもてない子もいますし、オムツをしている子もいますので、ベビーシッターの延長と考えていただければよいと思います」と横山赳夫学院長がおっしゃるように、みんなはまだ3歳と4歳。ですから幼稚科で大切にしているのは、きちんとしたあいさつ。おやつを食べる前の「いただきます」と食べ終わった時の「ごちそうさま」が正しく言えるよう、家庭での躾同様、学校でも教えています。
3、4歳というのは自我が目覚める年齢で、とかく自分中心なのだそうです。それに加え、今年の幼稚科の生徒は皆、ひとりっ子。そのため大島先生は、クレヨンをみんなで一緒に使うようになど、協調性を大切にしています。発育初期のこの時期に大事なことを教えるため、この学院では幼稚科に大きな比重を置いています。

●カナダ製の日本語の教科書
横山夫妻はスティーブストン日本語学校の創立者として、1966年から日本語を教え始めました。最初は日本の教科書を使いましたが、カナダの児童には何か不具合なものがあり、北米の日本語学校が使っていたアメリカ製教科書に切り換えましたが、これも内容がアメリカ向けでした。そこで1974年に創設された『BC州日本語教育振興会』の初代会長となった横山先生は、カナダ製の日本語教科書作成という一大事業を開始。20年の歳月をかけて1年生から7年生までの教科書を完成させました。
スティーブストン日本語学校を引退したご夫妻には、残された仕事がありました。それは作成したカナダ製の日本語の教科書を使うことでした。そこで1990年、スティーブストン日本語学校の合意のもとに、リッチモンド日本語学院を設立。今年で19年を迎えました。


●日本語教育40年
その教科書を見せてもらうと、ひらがなの練習は「あ、い、う、え、お」の順ではなく、「し、て、く、も」からでした。やさしい書き方の字から始まっているんですね。この日、幼稚科の児童たちも、楽しそうにひらがなをなぞっていました。
同学院には幼稚科から進級して、現在公立学校の8年生、11年生の生徒がふたりいます。ひとりは剣道3級、ひとりはホッケーの選手ですが、ずっと日本語の勉強を続けています。彼らのお母さんも横山ご夫妻のもとで12年間日本語を習い、横山先生が結婚式の司会をしたそうで「私にとっては孫のような生徒です」となんだかアットホームな雰囲気。
40年の長きにわたって、日本語教育にたずさわっている横山先生は、たとえ少人数であっても、日本語を身につけて社会に出て行った生徒たちのことを考えるとうれしいと話しています。この日も卒業生が遊びに来ていました。今の日本で薄れつつある教師と児童との触れ合い、恩師を大切にする気持ちのようなものが、そこから感じ取れました。

(取材  ルイーズ阿久沢)

リッチモンド日本語学院
スティーブストン合同教会内
3720 Broadway Street, Richmond BC V7E 4Y8
電話 604-214-8002

 

2009年6月4日発行#23に掲載

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