How to Live 『暮らしインフォ』
在バンクーバー日本国総領事館・日加ヘルスケア協会共催
〜2008 メンタルヘルスセミナー〜
留学生のメンタルヘルスをサポートするために その1

 


 


大塚総領事


中江領事

満席となった会場


 6月18日、在バンクーバー日本国総領事館において、在バンクーバー日本国総領事館と日加ヘルスケア協会共催のもと、留学生のメンタルヘルスをサポートするためのセミナーが開催された。当日は、ESLスクールや留学エージェントのスタッフなど、留学生に関わる人々が60人近くも参加し、会場はほぼ満席となるなど、留学生のメンタルケアに対する関心の強さと問題の深さを感じた。
 セミナーは大塚聖一総領事の挨拶に始まり、それぞれの視点と立場から、中江新領事、精神科医の堀江通旦医師、クリニカル・カウンセラーの原田直子医師、ファミリードクターの田中朝絵医師の話と続いた。3時間にわたるセミナーは非常に盛りだくさんの内容で、最後の質疑応答でも時間ぎりぎりまで質問の手が次々と上がった。3回シリーズで主な内容を紹介していく。

(取材 西澤律子)

 

大塚聖一総領事挨拶

10年間に倍以上
 カナダ連邦政府・市民権移民省の2006年の統計によると、カナダ全土で留学している外国人の大学・大学院生は8万3760人、コミュニテイカレッジなどが1万8239人、初等中等教育が3万1825人、語学学校などが1万7121人など総計15万6950人となっています。それを遡るちょうど10年前が7万5804人であったことから、この10年間に倍以上に増えている計算になります。

 留学生の国・地域別内訳では、1位中国で3万6041人、2位韓国2万7411人、3位米国で1万1455人、そして4位が日本で7944人、以下フランス、インド、香港、台湾、メキシコの順となっております。日本人留学生については、過去10年間に5.1%伸びております。

 これら留学生は、「留学ビザ」を取得して入国するわけですが(但し就学期間が6カ月以下の場合には、査証取得が免除される)、日本人の場合には、短期の就労ビザで入国するワーキングホリデー・プログラムに参加する30歳未満の若者が、2008年で言えば9500人を限度としてカナダへの入国が認められるわけです。これ以外にもユース・エクスチェンジ・プログラムなどカナダ留学生に一定の就労許可が認められる場合もあります。
 我々総領事館の在留邦人の統計を見ても、BC州では10年前に比べてビジネス関係の訪問・中長期の滞在者が減少し、観光客も減少していますが、留学生や語学学習などのための一時滞在はやや増えております。このようにBC州の在留邦人の滞在目的は変化してきている、ということが言えます。

日頃から関係者間のネットワークを
 留学生やワーキングホリデー・プログラムによる一時滞在者は、概して海外での生活は未経験な人が多いこと、英語を習得中であり未だ習熟していない人もいること、勉学やアルバイト的な一時就労に従事していることなどから、人によっては困難な目標や思うようにいかない現状に直面して、孤独な環境の下での生活を余儀なくされ、その結果心のケアを必要とする人が少なくないと思われます。

 実際、そのような相談や情報が総領事館に寄せられます。メンタル・ヘルスに支障を来した人をそのまま放置しておくと、悪化してしまい、不幸な事態を招きかねません。メンタル・ヘルスに支障を来した人、出来るだけ早くカウンセラーや専門医のアドバイスを受けることが重要です。そして的確な治療を受けるなり、帰国の措置をとるほうが望ましいことが多いようです。留学生に関わりのある方々が、まずはメンタル・ヘルスの問題を的確に理解し、そして異変があると判断される場合には、当人の家族、病院や専門医、留学あっせんサービスや総領事館、旅行代理店に連絡いただき、入院や帰国などの手配が必要となってきます。そのためには日頃からバンクーバーを中心とした関係者間のネットワークを作っておくことが重要でしょう。

 本日は、このような直面する問題に対処するために、専門の先生方から貴重なご意見やアドバイスをお聞きする絶好の機会であると考えます。総領事館としても、当地のみならず広く世界各国に滞在する在留邦人の健康問題の一環として、本日の議論を参考にさせていただき、どのようにしたら個々の留学生が海外で健康に過ごせるのか、さらに問題が生じたときに迅速に事態に対処できるのかについて考えを深めて参りたいと思います。

 

留学生の心の問題、総領事館の対応 
中江新領事

1.海外に在留する日本人の増大
 海外在留邦人の総数は、2006年10月1日の時点において、106万3695人。このうちの約40%を北米が占め、地域別で1位。当館管轄地域は、BC州2万2222人、ユーコン準州20人、計2万2242人。バンクーバー広域圏は1万9753人。このように在留する日本人が増えてきた分、いろいろなトラブルも起きており、在バンクーバー総領事館の邦人援護件数は、2006年に208件、2007年に181件と、世界の在外公館の中で20番目に多い状況である。(1位:タイ、2位:上海、3位:LA)

2.当地における精神障害案件発生の特徴
 2005年度6件6人、2006年度10件9人、2007年度8件7人であるが、これは当館が直接関わった数であり、実際にははるかに多いと考えられる。案件対象はやや女性が多く、2007年度は北米全体で118人中65人、世界全体で306人中171人が女性。対象は旅行者だけでなく、留学などで長期滞在する人も多く、一つ一つの案件を処理するまでの期間が長い。その理由としては、「病気の自覚が乏しい」「診療、入院、家族の連携に時間がかかる」などが挙げられる。 

 当地における精神障害の特徴としては次の3つ。
●カナダという国に対して抱くイメージと現実のギャップ
 大自然に囲まれた居心地の良い場所というイメージを持って来たものの、現実には言葉の壁、価値観の違い、社会の仕組みの違いなどから不適応を起こす。
●「転地療養先」としてのカナダ
 精神障害、引きこもり、いじめ、受験失敗解消の地としてのカナダを選ぶ傾向。
●夏と冬での気候的な落差
 明るい夏と重苦しい冬の日照時間のギャップにより、セロトニン不足とメラトニンの過剰が生まれ、SAD(Seasonal Affective Disease季節性情動障害)を発症すると言われていること。

3.在バンクーバー総領事館の邦人援護体制
 領事部館員3人、領事部ローカルスタッフは5人。また、異文化環境の中での重症度の判定、患者のケアにおいて、日本語で対応してもらえる精神科医、精神保健専門家の存在は大変重要であり、当館としては堀江通旦先生に精神科顧問医に就任いただき、精神障害案件への対応に関しご支援いただいている(バンクーバー以外にも、世界にあるいくつかの日本の在外公館では、精神科顧問医に就任いただいている)。

4.当館の取り組み
 精神障害を疑われる人に会う際はなるべく2人で対応。精神障害は外観からは必ずしも判別できない場合もあるので、不自然な言動、例えば妄想などがないか、自傷他害の危険性はあるか、悩みや希望は何かなど、辛抱強く、「見極め」、「見立て」に努め、訊問や反論は控える。

 人定事項、パスポートや金銭、その他の所持品、海外保険の有無、宿舎を含む生活状況、家族関係、既往歴の確認にも努める。ホテルからの通報など、本人以外からの相談を受けた際は、通報者に可能な範囲で人定事項などを確認してもらうとともに、現地に赴いて本人と会う。

 本人に精神障害の病識がある場合は専門医や医療機関に本人と共に赴く。しかし本人に病識がない場合、病気だと決めつけることのないよう言い方には気をつけつつ、受診の必要性をよく説得する必要が出てくる。また、病識はなくとも、不自然な言動を続ける人については、例えばVancouver Community Mental Healthに連絡し、看護士や医師に来てもらって診察を依頼するという方法もある。

 日本の家族への応対においても配慮が必要だ。精神疾患を患う身内を有し、発病→治療→寛解(病気そのものは完全に治療していないが、症状が一時的あるいは永続的に軽減または消失すること)→治療中断→再発→治療という長いプロセスの中で疲れ果て、挫折感を味わっている家族も多いからだ。家族の意向をよく理解し、精神障害者である本人が治療を続け無事に帰国できるよう、家族と「共同作業」を心がけていかなければならない。

 最後に、その人が無事に帰国できるよう、帰国フライト、同行者の確保などについても側面支援を行っている。

5.日系コミュニティーとしての連携
 メンタルヘルスケアのための関連団体との連携・ネットワーク作りを図り、知識や経験を共有しあうことがますます重要になってきていると考えているので、当館としてもその方向で努力していきたい。

 また、語学学校や留学情報センター、ホームステイ受け入れ先など日頃留学生の皆さんと接することが多い皆さんにおかれては、ケア・ギバーとしての意識を深めていただきたく、また、今回ご講演をいただく専門家の皆さんのお話をぜひ参考にしていただきたい。

 

(この記事の掲載は2008年7月3日 第27号です。)