2017年4月27日 第17号

ジャック・デイレスという杉原ビザ受給者が、バンクーバー市のグランビル通り900ブロックに靴店を持っていたとの情報が入ったのは2013年7月。しかし、詳しい番地は分からなかった。

 

ジャック・デイレス(2列目左端)、1941年6月末に横浜から出航したバンクーバーに向かう日枝丸の船上でユダヤ系避難民と。最上段、左から3人目は当連載1回目のゾシア・ブルマン、ゾシアの右斜め前は夫のナテック・ブルマン。2列目右端のミエテック・リクテンバームと、同列左から2人目(ベレーの男性)ワディック・リクテンバームは兄弟で、共に杉原ビザ受給者。バンクーバーに住んだ(マイケル・デイレス提供)

 

■900ブロック探索

 グランビル通り900ブロックと言えば、私が毎週土曜日午前中に通うダンスセンターがある。ジャック・デイレスの靴店の名残がないかと、2013年9月、ある土曜日の朝、900ブロックを探索してみることにした。

 通りの店を順番に一軒ずつ観察する。しかし、予想通り、70年近く昔の店の面影など、どこにも発見できない。

 それから1カ月後の10月、ジャックの息子のマイケル・デイレスさんにトロント市内で会った。

■戦前の恵まれた生活

 マイケル・デイレスは、1933年、ポーランドのワルシャワで生まれた。家族からは、「ミハシュ」と呼ばれていた。  父ジャックと母ヘレンは、「インペリアル」という名の靴製作所を経営。それが成功し、さらに賃貸アパートの建物を二つ持つようになる。

 両親がワルシャワに住み仕事をする一方、ミハシュ、兄サム、妹エラの三人は叔母のルシアと、ワルシャワから30キロほど離れたスロドボロウという村で生活する。両親は週末になるとやってきた。

 兄サムは学齢になると、伯父がいる英国に行き学校に通う。

 1939年9月、第二次世界大戦勃発。父は、彼の身の安全と、妻と子供たちをいずれ呼び寄せようと、商取引のあったリトアニアに向かった。

■家族離れて暮らした戦中

 リトアニアも危険と分かった父ジャックは、ヨーロッパ脱出を図る。1940年8月8日、同国カウナスの日本領事館で領事代理・杉原千畝から日本通過ビザを受給。翌41年2月2日、敦賀港で日本上陸後、神戸に到着した。さらに、日本滞在中にカナダ入国ビザを手に入れ、同年6月26日、横浜から日枝丸に乗船。7月9日、バンクーバーに着いた。

 ジャックはバンクーバーで、靴の修繕法を習う。同時に新しい靴を集め、それを売るためグランビル通りに店を持った。戦中で靴が不足していたので繁盛した。

 一方、ワルシャワに残った母ヘレンは、ゲットー(ユダヤ人の強制住居地区)から出ることができない。ある日ついに、強制収容所行き貨物列車が着く駅まで行進させられた。しかし隊列から抜け出し、周辺で一晩潜む。翌朝、屋根伝いに逃げて身を隠した。

 スロドボロウにいたミハシュ、妹エラ、叔母ルシアは、ドイツ軍のポーランド侵攻後、ワルシャワに戻った。三人一緒にいると危険なので、一人ずつポーランド人の家庭や孤児院を点々とし、かくまわれる。互いの運命がどうなっているのかは全く分からなかった。

 終戦後の1948年11月、ホロコーストを逃れたミハシュ、母ヘレン、妹エラは、英国に留まっていた兄サムとカナダへ。バンクーバーで父ジャックと家族再会を果たした。叔母ルシアも生き延びたが、ポーランドに留まった。

 ヘレンの手伝いが加わって、グランビル通りのジャックの靴店は、ますます繁盛する。そしてデイレス夫妻は、もう一店、バンクーバー市内に靴店を持った。さらに二人は、不動産業も手掛けた。

 杉原ビザを受給したジャックは、1998年、98歳で亡くなった。

■浮き出た番地

 ミハシュことマイケルとは、トロントの日系文化会館で会った。面談中、同会館スタッフが、ジャックの写真や書類をスキャナーにかけてくれた。そして、私がバンクーバーに戻ると、そのデータをEメールで一つずつ送ってくれた。

 超高画質でのスキャンだ。おかげでダウンロードに時間がかかる。ようやく全てのデータを保存し終え、写真を一枚ずつ見ていて驚いた。超高画質のおかげでジャックの靴店の番地が浮かび上がっている。927。私が通うダンスセンターだ。

 さっそくトロントのマイケルに報告した。するとこう返ってきた。

 「父は、ダンスシューズは売ってなかったけどね」

(取材 高橋 文)

  

グランビル通り927番地のデイレス靴店の前に立つジャック・デイレス、バンクーバー、1940年代中頃(マイケル・デイレス提供)

 

デイレス靴店内のジャック・デイレス、バンクーバー、1940年代中頃(マイケル・デイレス提供)

 

マイケル・デイレスさん、トロント日系文化会館、2013年10月

 

 

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