2017年3月2日 第9号

兄弟・親戚が同時に日本通過ビザを受給しても、その後の人生も一緒だったわけではない。日本で別れた後、ほとんど会えなくなることもあった。

 

ヘイマン夫妻が横浜からバンクーバーまで乗船したNYK(日本郵船会社)平安丸の客室カード(ジェーン・ヘイマン、ジョージ・ヘイマン提供)

 

■暗号の手紙で知った夫の居場所

 ポーランド、ワルシャワに住むマルタ・ヘイマンが、夫ステファンからリトアニアにいるという手紙を受け取ったのは1939年11月のこと。同年9月1日、第二次世界大戦が勃発。その二日後、夫は、彼の弟ジョゼフと共に、これから作られると聞いたポーランド軍に加わるため、自転車で同国東部へと発った。

 出発前、マルタとステファンは、手紙の検閲を予想して暗号を作っておいた。その手紙が来たのだ。「リトアニアに来るように」と暗号文は語っていた。

 マルタは家財を売り、旅立つのに必要な偽造書類を手に入れた。十字架を身につけクリスチャンに見えるようにして汽車に乗る。途中、ソ連兵から行先や目的を聞かれたが、言いつくろった。  

 

■兄弟の別れ

 マルタはリトアニアのビリニュスで、夫や義理の弟と再会する。

 1940年8月10日、三人はカウナスの日本領事館で日本通過ビザを受給。日本へ向かった。41年2月25日、神戸に着く。

 日本滞在中は、最終目的地のビザを手に入れようと、いろいろと手を尽くした。幸い、マルタの母方のいとこがカナダのバンクーバーにいて、マルタとステファンの引受人になってくれる。マルタは神戸で、米国のユダヤ人共同配給委員会から派遣されていたモーゼス・ベックルマンの秘書として働いたので、彼を通して在京ポーランド大使タデウシュ・ロメルに、カナダのビザが手に入るよう働きかけてもらった。

 カナダ入国ビザを手にした二人は、41年5月27日、横浜から平安丸に乗り日本を離れる。6月9日、バンクーバーに到着。

 しかし、義理の弟ジョゼフは日本に残った。マルタの母方の親戚とはつながっていないので、バンクーバーのいとこに彼のカナダ入国引受人になってもらえなかったからだ。しかし、どうにかオーストラリアのビザがとれた。同年7月6日、日本を後にした。

 

■適応した異郷での生活

 バンクーバーでは、マルタもステファンも英語ができたので仕事を得るには困らなかった。

 二人は芸術を愛し、特に音楽が好きだった。家賃や食費などの生活費を払った後いくらかでもお金が残ると、バンクーバー・シンフォニー・オーケストラを聞きにいったり舞台を見にいった。ポーランドから同じように日本を経由してやってきた他のユダヤ人たちと、週末に集まっては食事をしたり出かけたりした。同時に、住んでいる地区にもよく溶け込み、彼らの子供二人にはコミュニティの一員であることを教えた。子供たちが通っている学校のPTAの会長も引き受けた。

 一方、一人でオーストラリアに渡ったステファンは、結局そこで結婚して落ち着いた。しかし、カナダで暮らす兄夫婦とは、その後の人生で2回しか会う機会がなかった。  

 

■日系カナダ人戦後補償を応援

 マルタとステファンの息子ジョージは、バンクーバー市に住む。

 1980年代、日系カナダ人戦後補償運動が展開されている最中、市内の日本語学校で開かれた非日系カナダ人にも支持を呼びかける集会に「ブリティッシュ・コロンビア州政府並びにサービス関連労働組合」からの代表として招かれた。十数人の中の発言者の一人としてスピーチに立った時の気持ちを、こう振り返る。

 「この運動の社会的・歴史的意義を日系人ではない立場から述べ、カナダ政府に対する日系社会からの要求を支援した。政府が大戦中、日系人に行った差別対応を認め、正しい補償を求めることは重要と思ったから」、「スギハラの場合のように自らの身に影響したり危険を冒すようなことではなかったが、小さいことでも、私ができることでした」と語った。

(取材 高橋 文)

 

●参照
新報リポート『1990年代までの戦後補償運動』、バンクーバー新報、2014年12月4日、第36巻49号。

 

マルタ・ヘイマンと長女ジェーン、バンクーバー、1944年(ジェーン・ヘイマン、ジョージ・ヘイマン提供)

 

長女ジェーンを膝にして抱くステファン・ヘイマンと妻マルタ、バンクーバー、1944年 (ジェーン・ヘイマン、ジョージ・ヘイマン提供)

 

ユダヤ人共同配給委員会のモーゼス・ベックルマンが在京ポーランド大使タデウシュ・ロメルに、ヘイマン夫妻のカナダ入国ビザ受給への働き掛けを依頼した電報。ベックルマンも杉原ビザ受給者で、杉原千畝作成の日本通過ビザ発給リストに記載されている2139人の中で唯一の米国国籍(ジェーン・ヘイマン、ジョージ・ヘイマン提供)

 

 

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