2017年8月17日 第33号

 ゴルフでたまたま一緒にプレーするカナディアンに「バンクーバーの夏は世界一」とお世辞を言うと、彼等は心底から喜んでくれる。食い物はちょっと今一だが、気候と景色はすばらしく、お世辞でも何でもない。

 たまたまトロントでの国際学会の帰り道にバンクーバーに寄って、その気候の良さを実感した私は、退職後に過ごす老後はバンクーバーと決めていた。それがあって、1997年、メトロタウンのマンションを買った。2LDKがたったの1800万円だったが、ローンが払えずいつ手放すか分からない状態だったからすぐには使えず、3年間放置して、その間しゃにむに本を書きまくってローンを支払った。

 それやこれやで実際のメトロタウンのマンションを使い始めたのが2000年の夏からであった。ベランダからはベーカー山の真っ白な姿、また近くにはセイモア山の山並み、つまりコースト山脈の走りが並ぶ。それ以来17年間、必ず夏の3カ月はバンクーバー暮らしである。

 しかしいくら山が好きといっても年がら年中ベーカー山を眺めても居られない。手当たり次第に源氏物語や平家物語を読んだ。最近も新平家物語全16巻にとりついたが、これは1カ月ほどで読み終えた。物理科学月刊誌『パリティ』(丸善)の編集長としての仕事も一日30分ぐらいで片が付く。

 他にこれといってやることも食べるものもない。人間、やることがないと眠くなる。だから、とくに午後はいつのまにか昼寝で過ごす毎日。人生、どうせ昼寝で過ごすだけなら死んでいるのと変わりはない。だから死んでもいいのだが、少しでも長生きしてひ孫の成長は見届けたい。

 死んだも同然の昼寝の人生で社会の重荷になるのなら、少しは世のお役に立てることはないのか。そこで始めたのが『バンクーバーサイエンスカフェ』、那須『成人大学講座』、『サイパン親子理科教室』である。それに加えて今回お許しをいただいて、この『バンクーバー新報』の『われらが科学文明』の連載を始めることになった。すべてボランティアである。

 毎年のように日本はノーベル賞(科学分野)を受賞している。毎年ノーベル賞受賞者が出るのは、他にアメリカしかない。日本は今、どうしてかくも急速に科学が進歩したのか、本当にそんなに凄いのか。それをお伝えするのが本稿の趣旨である。そして願わくば皆さまの優秀な子弟を理科好きに育て、日本の大学院の教育を受けさせ、ノーベル賞クラスの大科学者に育ててほしいと願うのだ。(拙著『子供は理系にせよ』(NHK出版)、『大学院のすすめ』(東洋経済))

 私は、何を隠そう、実はノーベル賞候補を日本から推薦する『推薦人』を依頼され6年間務めた。(年度についてはさしさわりがあるので記載しない)このうちで私が推薦した物理学関連学者のすべてがノーベル物理学賞を受賞した。

 すなわち(2000年以降)、
2002年・小柴昌俊、2008年・小林誠、益川俊英、2014年・赤崎勇、天野浩、2015年・梶田隆章

 ついでに化学賞には、
2000年・白川英樹、2001年・野依良治、2002年・田中耕一、2008年・下村脩、2010年・根岸英一、鈴木章

 医学生理学賞はこの間3名の方々が受賞している。これら科学3賞、合計して15名ということになる。これに国籍はアメリカだが実質的に日本で教育を受け日本で研究者だった南部陽一郎、田中修二、を加えると17名。何と平均毎年ノーベル賞(科学3賞)を受賞しているのだ。

 日本は湯川秀樹、朝永振一郎、お二人の先駆的ノーベル賞受賞もあって、科学分野では物理学は突出しているように見えるがそうではなく、物理、化学分野はまったく同人数である。ただ前記アメリカ籍のお二人があるから実質的には物理学賞は8名となり化学よりは多い。

 それでは次回からは日本の、発展著しい物理科学の今をお伝えしよう。眠い目をこすって。

 


大槻義彦氏プロフィール:
早稲田大学名誉教授
理学博士(東大)
東大大学院数物研究科卒、東京大学助教、講師を経て、早稲田大学理工学部教授。
この間、ミュンヒェン大学客員教授、名古屋大学客員教授、日本物理学会理事、日本学術会議委員などを歴任。
専門の学術論文162編、著書、訳書、編書146冊。物理科学月刊誌『パリティ』(丸善)編集長。
『たけしのTVタックル』などテレビ、ラジオ、講演多数。 

 

 

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