2018年1月18日 第3号

 ダイヤモンドの2倍も固く、アルミよりも相当軽く、銅線よりもはるかに大電流を流せるという夢のような新素材、カーボンナノチューブが日本の飯島澄夫博士によって発見された。発見後、30年にもなるが、この材料は大量生産できず本格的な応用にまでは至らなかったので、ノーベル賞は後回しになってきた。それがここに来て、にわかに大量生産のめどがつき始めている。

 私は1980年ごろ、当時アメリカ南部のアリゾナ大学に滞在していた彼を訪ねた。日曜日に近くの砂漠のカクタス(巨大サボテン)見物につれて行ってくれた。当時奥さんはいなかったらしく、だれか助手のような若い科学者と私の3人連れだった。

 カクタス見物の帰り道、砂漠の道路で彼のぼろクルマはエンコしてしまった。さあ大変、付近にガソリンスタンドも無ければ当時スマホも携帯電話もなかった。この道に他の車が来合わせるのを待つ以外はない。しかしいくら待ってもそんな車など見かけない。

 そんな時だった。かれは突然『大槻さんね、自分はへんなもの見たんですよ』と言い出した。何?!ヘンなものだと。これは大変だ、砂漠に幽霊車でも見たというのか、砂漠で絶望して気がヘンになったのか。『飯島さん、 落ち着いて、何とかなるから』と私。

 『いや、電子顕微鏡で見てるカーボンの中にヘンな黒いミミズのようなものが見えるんですよ』。黒いミミズ?!『そうですよ、最近しょっちゅう見えるんですよ』。私は半ば呆れた。それより今考えることはクルマのエンコのことだろう?!ミミズなど後でゆっくり見ればいいではないか。

 これこそかのカーボンナノチューブの発見のただ中だったのだ。それ以降彼は、およそ10年かけてこのミミズの実態を明確に解明した。つまり図のような炭素の原子は細く連なってチューブ状になっている、まったく新しい炭素材料だったのだ。

 もちろんこの不思議なミミズに気がついた日本人は他にもいたのだ。その一人が信州大学の遠藤守信さんであった。彼は1976年、カーボンが不思議な形になることを発見したが、その原子構造まで明らかにせずに終わった。彼はむしろその構造はさておいて、この材料を利用する技術的発明に心血を注いだのだった。

 何しろこのカーボンナノチューブは魅力に富んだ材料だったからだ。先に述べたようにその硬さはダイヤモンドの2倍、それでいてアルミの約半分の軽さ、引っ張ってみるとその強度は鋼鉄の100倍で容易に切れない(破断しにくい)。

 カーボンナノチューブは大電流を流せる。銅線に流せる電流の1000倍もの電流を流せるのだ。また熱にも強い。真空中なら実に2300度Cでも融けないと言う。また薬品に触れても安定しており化学変化を起こさない。

 もはや科学産業はカーボンナノチューブを虎視眈々と狙っている。半導体産業はもちろんコンピューター産業、化学薬品産業、などあらゆる分野で注目の的である。この材料で宇宙空間にエレベーターを作ろうという奇抜なアイディアまであるのだ。

 

 


大槻義彦氏プロフィール:
早稲田大学名誉教授
理学博士(東大)
東大大学院数物研究科卒、東京大学助教、講師を経て、早稲田大学理工学部教授。
この間、ミュンヒェン大学客員教授、名古屋大学客員教授、日本物理学会理事、日本学術会議委員などを歴任。
専門の学術論文162編、著書、訳書、編書146冊。物理科学月刊誌『パリティ』(丸善)編集長。
『たけしのTVタックル』などテレビ、ラジオ、講演多数。 

 

 

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