9 新興国の進出
どれだけ大量の援助をしても、それが被援助国の自立に結び付かなければ意味がありません。援助が農村や企業の生産活動に裨益して、それが国全体の経済成長に結び付き人々の生活を向上させるには、まずはその国が政治的に安定して行政機構が最低限でも機能しなければなりません。私はアフリカ諸国の比較優位は、大自然に根付く天然資源と農業にあると考えていますが、植民地時代からそれらが開発されたとはいえ、まだまだ大きな潜在力を秘めています。またアフリカ諸国はそれぞれが市場としては小さいのですが、未開拓であり、あるいは復興を必要としていることから、需要は大きく各種のビジネスチャンスがあります。近年、日本の企業も遅まきながらアフリカに投資していますが、まだ限定的です。他方、この約10年間、アフリカにおける資源や投資機会をもとめての新興国の活躍はめざましいものがあります。特に顕著なのが中国ですが、インド、ロシア、ブラジル、南アフリカのBRICSメンバーに加えて韓国、マレーシア、シンガポール、モーリシャス等も出てきています。このうち南アは、もともと英国の植民地時代から南部アフリカのハブ的な位置付けを確保していましたが、アフリカ大陸全体を市場として見据えて投資を進めています。これらの国に共通するのが、リスクはあって当り前、やってだめなら撤退すればよい、一つの方法がだめなら軌道修正すれば良い、といった決断力と行動力のすごさです。その態度は個人にしろ企業にしろ、多くが洗練されておらず自己中心的であったりしますが、なによりもバイタリティーがあります。これを見ていると、かっての日本の企業戦士が世界の果てまで日本製品を売り込みに行っていた、あるいは現地での工場立ち上げに汗と情熱を注いで奮闘していた姿を思い出します。

10 おわりに
約20年前に外務省の同僚たちと話していた際に、たまたま「アフリカは発展するか?」という話題になりました。否定的な意見があるのに対して私は、つぎのようなことを述べた記憶があります。

「……同じような問いかけが、70年代初頭にアジア、特に東南アジアの国々に対してなされて世間には否定的意見が多かった。それが現在(90年頃)、これら諸国は日本をふくむ西側先進国に対して原料輸出元となり、安い工業製品を供給し、先進国の市場となって世界の注目を集めている。企業的な構図でいえば、いわば先進国は大企業で、アジアの途上国はそれを支える「下請け」の位置関係になる。下請けが発展すれば同じ構図で、孫請けにあたるアフリカには経済的な波及効果が及ぶ時代がきっと来るはずだ。……」

この考えは今も変わっておらず、おおむね予想通りにコトは進行していると見ています。アフリカに進出している新興国は元気が良い分、危ういところも多く、いわば企業でいえば「ハイリスク・ハイリターン」の部類です。長期的に見て新興国の投資がアフリカの発展にどう影響するかは、未知数の部分も大きいのですが、援助にしても企業活動にしても、重要なのはアフリカ諸国の自立であり、自立なくしてはアフリカ諸国との長期的なWin-Winの関係は築けません。官ベースの援助のみで途上国の経済発展を実現できるものでなく、民間の生産活動があってこそ自立に結び付いていくことになります。新興国などの企業進出が、そうした役割の一部を担うとすれば、アフリカ諸国の健全な発展を促すためにガバナンス、行政機構、法体系の強化と整備が重要となります。汚職が蔓延して、無秩序な経済行為がまかり通るような社会では、結局は一部の富裕層や強いもの勝ちとなって、発展は長続きしない結果となることでしょう。この観点から、上記の援助協調におけるプログラム型支援は重要なはたらきかけといえます。
その一方で日本の企業がアフリカで活動するとすれば、新興国と同列で競争しても価格や労務の面で不利となります。日本にとっては過去に新興国で培った企業との関係や高度な技術と情報をつかって、アフリカ諸国と新興国の関係に加わっていくことが有望な選択肢になると思います。
大多数の読者の皆様にとっては、アフリカの話題は縁遠いものであることを承知で話を進めてきましたが、拙稿の目的は、対アフリカ支援の歩みを通して、日本の現在の閉塞感を打ち破るような元気のよい話を皆様に提供したかったからです。アフリカ諸国の識者は、彼らが知り得る日本の文化や社会の良いところを理解、評価していますが、同時に日本は決断が遅い、実行までに時間がかかる等の欠点もよく知っています。すでに述べたように、日本は湾岸戦争に135億ドルもの大金を拠出しながら、相応の国際評価を得られなかった苦い経験をしています。この失敗はくりかえしてはなりません。日本にとって途上国援助は、他国と良好な関係をきずく重要な手段ですが、そこでも同様なことがいえます。なにごとによらず、今後の対外政策においてこれまでに日本が築いた信用と体験を生かした真摯な取り組みを行っていきたいものです。

 

2011年12月8日号(#50)にて掲載

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