SPECIAL 2008
2008年6月26日 第26号 掲載
![]() 講演中のジャック・フィンレイソンさん。最後に若年層の人口不足と団塊の世代の集団退職で、BC州は深刻な労働力不足に陥ると補足した |
![]() 講演中の様子。パワーポイントを使って正確な数字を示していた |
日本貿易振興機構(JETRO)バンクーバーが6月10日、日系企業を対象にしたビジネスセミナーを開催した。講演者はバンクーバーで活躍するエコノミスト、ジャック・フィンレイソンさん。テーマは『BC州の経済・政策最新情報とビジネスへの影響』。第2期キャンベル政権の下、ブリティッシュ・コロンビア州経済の現状と、その政策による影響、さらには今後の見通しなどを解説した。
その内容を要約して紹介する。
BC州経済についての概要
BC州の人口は約440万人で全国に占める割合は13パーセントにすぎない。ただ人口は緩やかに増え続け、年平均増加率は1.4パーセントでこれは全国平均よりもやや高い。国内総生産(GDP)は1790億ドルで全国GDPの12.4パーセントを占める。1人当たりの実質GDPは3万4971ドル、全国の3万6463ドルよりやや低い。
しかし、2007年の経済成長率は3.0パーセントと2.6パーセントの全国平均よりも高く、2000年から2006年の平均経済成長率は3.2パーセントで、同時期全国平均3.0パーセントを上回っている。
こうした現状の中、BC州が他州と異なる点は、GDPにおける製造工業産業の割合が12パーセントとかなり低いこと。BC州の主要産業は天然資源産業で、第2の主要産業が特にないのも特徴。しかし、この現状が現在の強いカナダドルの影響をまともに受けずにいる理由となっている。
BC州政府
現在のBC州政府は、2005年5月に行われた選挙で勝利した、ゴードン・キャンベル自由党政権が2期目に入った。次回の選挙は2009年5月。現在のところ自由党は安定した多数派政権を維持している。
1990年代からの経済を振り返る
1990年代BC州の経済は最悪だった。経済が好転し始めたのは2002年頃。1997年から2003年までのGDP成長率は平均2.6パーセントだが、2003年から2007年は平均3.6パーセントとなり、全国平均を上回るようになった。
BC州の実質GDP成長率の頂点は2005年の4.5パーセントで、同年の全国平均3.1パーセントを大きく上回っている。2006、07年は3.3、3.1パーセントと、依然全国平均を上回っているものの、成長率は緩やかになっている。
2002年から続いているBC州の経済成長は戦後最も長い記録を更新中で、2010年頃まで続くだろうと予測されている。
BC州経済の特徴としては、個人消費や不動産、建設業など国内経済が堅調で、輸出業が不調というアメリカとは逆の形となっているところである。
輸出産業
BC州の輸出主要産業は現在でも森林業で、全体の約40パーセントを占めている。しかし、現在最も不調な産業でもあり、その後退ぶりは特にアメリカ経済が落ち込んでからというもの、顕著になっている。
森林業以外でも輸出産業は軒並み低調で、原因は、アメリカ経済の後退とカナダドル高であり、今年の輸出産業は引き続き低迷が続くとみられている。
雇用
就業率は非常に高く、ここ数年この状態が続いている。伸び率は年平均で2.3パーセントと順調である。失業率は2002年には9パーセントだったが、2008年第1四半期には約4パーセントまで下がっている。これはアルバータ州の3パーセントに続く低い数字となっている。
建設業
2001年から2004年にかけて、住居用建物の建設は、年間20パーセント増が続き、劇的な伸びを示している。それ以降、伸びは緩やかなものの、相変わらず好調で、雇用率が高いのも建設業の好調が理由の一つにあげられる。住居用建物ではコンドミニアムの建設が相変わらず好調で、一戸建ては横ばいが続いている。
また、インフラ整備や商業・工業用施設などの建設が2004年から2007年まで急激に伸び、BC州の経済を支えていた。しかし、2008年は少し落ち込み、この先も減少傾向にあると予測されている。
強いカナダドルの影響
強いカナダドルは輸出業界に直接大きな影響を与えている。例えば、森林業ではカナダドルが1セント上がると、1億5000万から6000万ドルの影響があり、鉱山業では1セント変化すると5000万ドルの影響が出ると試算されている。
その他の輸出産業についても正確な数字は出されていないが、大きな影響があることは間違いない。
今後の見通し
2006年の3.3パーセント、2007年の3.1パーセントの実質GDP成長率に比べて、今年は2.2パーセントとやや緩やかな伸び率に落ち着くとみられている。理由は建設業が落ち着きを見せていることがあげられる。ただ、2009年は2.8パーセント、2010年には3.5パーセント増と予測されている。これは2009年後半からアメリカ経済が好転し始めると予測されていること、2010年にはオリンピックがあることなどが理由にある。しかし、経済の絶頂期はすでに終わったとみられ、これからは緩やかな伸びにとどまると予想されている。
BC州政府のこれまでの対策とこれから
2005〜08の対策
財政政策:均衡予算、黒字財政、そして2005年から効果的な個人・法人税減税を実施している。
パシフィック・ゲートウェイ政策:実質的には交通機関やインフラ整備などを進め、他の西海岸都市、ロサンゼルスやシアトルなどとの競争力を強めている。
産業の多様化:最新技術開発、新メディア、クリーンエネルギーなどの分野の開発促進を図っている。
投資:学術研究や技術開発への充実・拡大に取り組んでいる。
貿易や資本の流れの壁を取り除く:カナダと主要相手国との自由貿易促進をサポートしている。
先住民族対策:先住民族の積極的なコミュニティー参加を促している。
BC州政府の財政
BC州政府の財政は現在非常に健全で、黒字に転じている。その結果、州政府、ひいては州民の借金は減少し続けている。2006/07年のGDPに対する州民の負債率は14.8パーセントで、全国でアルバータに続き2番目の低さとなっている。ちなみにカナダの負債率は25パーセントである。
炭素税について
BC州政府は今年7月1日より炭素税の導入を決定した。これは北米の州では初めての試みで、今年度予算の最大の目玉となっている。
課税対象はガソリン、天然ガスなどすべての化石燃料で、2008年から2012年まで段階的に課税額は引き上げられていく。
炭素税の導入で増額した歳入分は、全額減税という形で州民に還元される『税収完全還元方式』をとっている。しかし、全州民に均等に還元されるというわけではなく、産業によっては減税額よりも徴収額が多くなる可能性もある。
経済学者は政府のこの政策を『タックスシフト』と呼んでいて、連邦政府自由党のステファン・ディオン党首などはこの政策に賛同している(6月19日自由党は温暖化対策に対する独自案『グリーンシフト』を発表し、この『タックスシフト』政策を打ち出している)。
炭素税のビジネスへの影響
最も大きく影響するのは、製造業、運送業、鉱山業、石油・天然ガス業など多くの化石燃料を使用する産業で、かなりの負担になるだろうと予想されている。
一方、金融業、小売店、最新技術分野など、化石燃料をあまり必要としない産業では増収につながる可能性がある。
どんな影響が出るのか、どういう結果になるのか興味深いところである。
その他の税対策
金融機関に対する資本税の3年間での段階的な廃止、州立校に対する固定資産税の減税、映画・テレビ業界への税措置、PSTの調整などは、キャンベル政権が行っている前向きな税対策である。
数年前にさかのぼってみると、キャンベル政権になってから税対策は改善されていると言える。2001年から2007年の間に所得税も法人税も減税され、法人税は2010年までに10パーセントまで引き下げられる予定だ。
こうした税政策はビジネス関係者を満足させるものだが、7月1日から導入される炭素税については不安がある。
BC州政府の地球温暖化防止政策
実質的にはBC州の地球温暖化政策は2007年1月から始まっている。ここから政府は環境問題を政策の中心に置き始め、これが最優先事項の一つとなった。BC州が出した地球温室効果ガス削減政策は、2020年までに2007年レベルの33パーセント削減を目標にしている。ちなみに京都議定書は1996年レベルの6パーセント削減となっている。
実質的な対策として、『よりグリーンな』カーボンフリーのエネルギーを供給すること、炭素税の導入、カリフォルニア州やオレゴン州とともに、排出量取引市場に参入することなどをあげている。
ただ温室効果ガス削減対策にはかなりの問題が山積みとなっている。まず第1に人口の増加、第2に石油・天然ガス産業の成長、第3にパシフィック・ゲートウェイ政策に伴う貿易量の増加、第4にBC州はすでにクリーンエネルギー供給州であることなどである。
数字的に見て、BC州の温室効果ガス排出量は現在も増え続けている。このままのペースでいくと排出量は、2020年までには二酸化炭素量で換算して80メガトンを超える。しかし、BC州政府の目標でいくと約45メガトンまで削減しなくてはならない。この差をどう埋めていくかが大きな問題である。
BC州の総排出量の約40パーセントが運輸交通手段によるもので、自動車、トラック、飛行機、船、電車などが含まれる。これらの排出量を劇的に削減するのは現在のところ難しい。やれることがないとは言わないが、大きな壁が立ちはだかっている。
こうした政府の地球温暖化対策は、少なからずBC州経済に影響を与えると考えられる。
(取材 三島直美)