SPECIAL 2008
2008年5月29日 第22号 掲載
![]() 記者会見で話す、ジョイ・コガワさん |
![]() ちょっと斜めになったが無事植樹終了。左から、コガワさん、 ルース議員、カンパニョーラ元副総督、ターナー氏 |
![]() コガワハウスの外観。1450 West 64th Ave. Vancouver |
![]() 本棚や暖炉のある部屋。その横にはピアノも置かれている |
バンクーバーにあるジョイ・コガワハウスが、必死の寄付金募集活動の末、ようやくTLC (The Land Conservancy)によって歴史的建造物としての役割を担うようになったのは2006年5月。このとき50万ドルという大口の寄付をした救世主の名前が、4月25日ジョイ・コガワハウスで発表された。
記者会見には、TLC代表ビル・ターナー氏、作家のジョイ・コガワさん、そして、寄贈者のナンシー・ルース議員が出席、また、同日行われた桜の植樹式にはアイオナ・カンパニョーラ元BC州副総督も出席した。
コガワハウスの救世主は、ナンシー・ルース議員
記者会見でターナー氏は2006年5月30日にTLCがジョイ・コガワハウスを所有するにあたって、寄付に協力してくれたすべての人々に感謝の意を表したいとあいさつした。「その中でも50万ドルという額を募金活動の終盤で寄付してくれたルース議員に感謝しています。これがなければおそらくプロジェクトは成功しなかっただろうと思います」と語った。
隣に座っていたルース議員は、「トロントでジョイからこの話を聞いた時から協力しようと思っていました。彼女のような素晴らしい女性に対して敬意を表する方法にこれ以上のことはないと思っていましたからね」と女性の地位向上を目指して活動する議員らしい言葉であいさつ。平和と希望を象徴するこの家で将来作家たちが同じ思いを共有してくれることを願っていると語った。
最後にあいさつしたジョイ・コガワさんは、「この家の保存活動プロジェクトが続いていた時、私の脳裏には『奇跡』という言葉が浮かんできました。これは、現実に愛が存在することの証明だと私は思っています」と感慨深げに話した。そして、「多くの人の愛があったからこそ成功し、不可能だと思われていたことも、実現することができたのです。これこそが私が信じていることですし、私の信条です。この家の物語はここから第2章の幕が上がるのです」と続けた。「人々が信じる心を持っている限り、素晴らしいことは起こるのです。魔法のように」と締めくくった。
ジョイ・コガワハウスについて
ジョイ・コガワハウスは2006年5月30日にTLC(The Land Conservancy)が世界550の人や団体から寄付を受けて買収した、戦前ジョイ・コガワさん家族が実際に暮らしていた家である。
一家が強制収容された後多くの所有者の手に渡り、その度に改築が行われた。そのため、現在TLCはできるだけコガワさん一家が暮らしていた頃の状態に戻すための改築作業を進めている。改築の終わった室内には当時の写真や本などが展示されている。
コガワさんの代表作『Obasan』に登場するこの家を象徴する裏庭の桜の木が、傷んでしまったために昨年伐採されたことを受けて、記者会見のあったこの日、新たな幕開けにふさわしく桜の木の植樹も行われた。
現在は児童や学生の見学などが申請をすれば行われている程度だが、今後は2009年春を目指して、作家のためのプログラム"Writer-in-residence"を開催する予定になっている。
このプログラムは2部構成で、ひとつはカナディアン対象、もうひとつは海外からの希望者に広く門戸を開き、特に国の情勢が悪くてこうした機会に恵まれない人を対象に招待し、書くことを通じて世界平和につながる活動を行っていく予定である
。
ターナー氏は英語だけではなく、他の言語でもやっていけることが望ましいと思っていると、このプログラムに関して語った。
TLCとはBC州で文化的価値の高い土地や建物、また自然保護区域などを買収し、保護・維持していく活動を行っている非営利団体で、これまで12万エーカーの土地を保護し、かかわったプロジェクトは300以上もあり、幅広く活動している。ジョイ・コガワハウス保存への寄付金は現在でも募集している。連絡先は、604‐733‐2313(バーナビー事務所)、ウェブサイトwww.conservancy.bc.ca。
ジョイ・コガワさんインタビュー
記者会見の後、ジョイ・コガワさんに短い時間ながらインタビューに応じてもらった。コガワハウスのこと、日本人としての自分、日系コミュニティについて話を聞いた。
コガワハウスが象徴しているもの
「私にとってこの家が象徴しているものは、『真実』だと思います」と応えた。「この家は複雑な歴史を持っています。歴史というのは例外なく、多くの真実が隠されています。しかし、そうした行為は人々を癒すことができないのです。だから私にとって『正直である』ということはとてもとても大事なことなのです」。
そしてこの家が真実をあらわにする機会を与えてくれていると話した。「すべてについての真実です。私の家族について、コミュニティについて、この国について、日本との関係について、そして、日本と中国の関係についてなど、人々が隠さなければならないと思っているものすべてのことについてです」。
自分の中の日本人
コガワさんは日系二世。両親は日本から移民してきた一世だった。そのため、同世代の三世と違って日本とのつながりは深い。
自分の中に日本人があるかとの問いに、「とてもとてもありますね」と答えた。「私の両親は一世だったので、日本の古い価値観を強く持っていて、私もそれを教えられて育ちました。謙虚であることが美徳であり、目立ちすぎるのは良くないと。でも、それだと西洋の価値観とは相入れないですよね。だから、私の中には西洋と東洋が混在しているといえますね」。
日本語を読んだり、書いたりはと質問すると、「すこし」と日本語で答えた。「簡単な日本語ならわかります」と少し照れながら日本語で答えてくれた。
日系コミュニティについて
この質問をした時、「政府が(日系)コミュニティを壊そうとしたと思う」と切り出した。「その時多くの心が押しつぶされました。でも、一世には耐える力(日本語で)『我慢強い』という力がありました。多くの我慢強さが必要でした」と続けた。
「しかし、三世では違っていました。彼らは深く張ったルーツを探していました。何が最も価値があるかを探していました」。これについては現代の日本人も同じだと思うと語った。「人々は根が深いほど真実を見ることができ、成長し、強くなれるのです。しかし、真実を教えられていない子供たちの根は浅いうちに切られています」。
だからこそ、「何かしら深い価値観を見出すことができれば、それが何であれ、たとえばコミュニティが親切さを信じるならば、それは(コミュニティに)引き継がれていくものだと思います。私はいまだに一世の価値観が(日系)コミュニティに息づいていると思っています。とっても良い価値観です。私も一世をよく知っていますが、それは彼らが素晴らしい人だったからだと思います」。
コガワハウスに期待すること
「ここで学ぶ作家たちに世界で何が起こっているか、彼らに見える世界を書いてもらいたいと思っています」。芸術家はカナリアのように繊細だという例えを出して、「彼らの目で見ることができる世界を、未来を、周りの人々に書くことを通じて見せてほしいのです。これはとても重要なことだと私は思っています」。
例えば、と言って、今問題になっている地球温暖化を取り巻く世界情勢で、もう地球が100年持たないのではないかと言われていること、私たちが頭のどこかでそう思っていてもそこから目を背けていることを取り上げて、「それを取り上げることができ、人々に語りかけ、そのことについて書くことができる作家がいるならば、その認識を広げて、世界平和につながる場にしてほしいと願っています。それが私の夢であり、希望です」と語った。
(取材 三島直美)