SPECIAL 2008
2008年5月15日 第20号 掲載
![]() 「遺産桜を守る連合会」の第2回ミーティングに集まった人びと |
![]() カトラーさんの示した試案に懸念を述べるバンクーバー仏教会のデイブ・ホリエさん 注)このデザイン画は、今回のミーティングのための試案であり、公園管理局の公式な代案ではない。 |
![]() 新フィールドハウスの模型を手に説明をするジェフ・カトラーさん |
![]() 伐採の危機に瀕している「遺産桜」の一部 |
日系カナダ人の移住百年を記念して、1977年、一世のパイオニアたちの手によってオッペンハイマー公園(通称パウエル・グラウンド)に植えられた桜が、伐採の危機に瀕している。日系人ばかりでなく、カナダの歴史に重要な意味を持つ「遺産桜」を守ろうと、去る4月26日に隣組で緊急コミュニティ・フォーラムが催され、「遺産桜を守る連合会」(以下「連合会」)が発足した。5月10日、この「連合会」による第二回目の会合が、パウエル・グラウンドに隣接したバンクーバー仏教会で催され、市の公園管理局の関係者らを含む約50人が参加。市当局からの現状説明を受けた後、これからの運動の進め方について活発な議論が交わされた。
公園管理局も設計変更へ柔軟な姿勢
パウエル祭の会場などとして、日系人ばかりでなく、グレーター・バンクーバーに住む多くの人びとになじみの深いパウエル・グラウンドは、20世紀初頭から「日本町」として知られていたパウエル街の一角にある。この公園は朝日野球チームの活躍など、さまざまな日系史の重要な舞台となってきた。1944年の日系人強制移動以来、「日本町」としてのおもかげは薄くなっているが、今も公園の周辺にはバンクーバー仏教会やバンクーバー日本語学校が活発な活動を続けているほか、日系人の歴史と深いつながりのある建物もたくさん残されている。
今回問題となっている「遺産桜」は、1977年、日系移民100年を記念して、一世のパイオニアたちによって公園に植樹されたもの。以来、毎年美しい花を咲かせ続けてきた。しかし、バンクーバー市は東部地域の活性化計画の一つとして、パウエル・グラウンドの整備計画を進めており、現在公園の北側にあるフィールドハウスと呼ばれる建物を廃棄して、ジャクソン街(東側)に新たな建物を建築することになった。当初の計画では、この移転により、1977年に植えられた「遺産桜」の多くが伐採されることになっていた。
事態を重く見た有志によって結成された「連合会」は、4月26日の初会合以来、迅速に活動を開始し、5月10日には二回目の会合をパウエル・グラウンドに隣接したバンクーバー仏教会で開催した。今回の会合には、バンクーバー市の公園管理局から施設開発課長であるダニカ・ジャコビックさんや、公園の整備設計を請け負っているデザイナーのジェフ・カトラーさんも参加。市当局は日系コミュニティからの要請に対し、設計変更を含めて柔軟に対応していく姿勢を明らかにした。
公園のデザイン変更を検討
パウエル・グラウンド整備計画のデザインを担当したカトラーさんは、「この公園はバンクーバー市の中で最も活発に利用されている公園の一つ。今回の整備計画については、すでに何度も公聴会を開き、コミュニティの人びとの意見を聞いてきた。最初にデザインをした段階では、この桜の歴史的な意味や重要性を知らなかった」と、まず整備計画の経過を説明した。当初の計画の段階では、「遺産桜」の重要性について、日系コミュニティからのアピールはほとんどなく、わずかに公園管理局による山城猛夫さんへのインタビューによって「遺産桜」の存在が明らかにされたが、すでにデザインは議会の承認を経てしまった。しかし、市当局は「連合会」などからのアピールを重く見て、計画の見直しを始めており、今回会合でも、カトラーさんから「あくまでも試案の段階」としながらも、3つの新しいデザイン案が提示された。
問題の中心となるのは、フィールドハウスと呼ばれる建物。この建物をどこに移転させるかによって、「遺産桜」の運命も決まると言って良い。カトラーさんが示した試案のうち、A案ではフィールドハウスが、ほぼ公園の中央に建てられることになり、「遺産桜」を伐採したり移植せずにすむ。しかし、このデザインでは、公園の中に中途半端な大きさのスペースがいくつも生まれることになり、公園の機能という面で問題がある。また、ジャクソン街に寄った位置にフィールドハウスを建てるB案およびC案では、何本かの「遺産桜」が犠牲になる、または移植によって枯れる可能性が出てくることになる。
公園管理局のジャコビックさんは「これらのデザイン案はあくまでも試案。まだ公的に発表の段階ではありません。また、この公園は日系コミュニティばかりでなく、他の利用者にとっても使いやすいものでなければならないことを考えてください」と付け加えた。
本紙5月1日号でも既報の通り、このフィールドハウスの位置については、バンクーバー仏教会などから、強い懸念が示されている。新しい建物のトイレがバンクーバー仏教会に近くなることによって、治安や見た目などが問題になる可能性が指摘されているのだ。これに対しカトラーさんからは、「新しいフィールドハウスは、大きなガラス壁を多用した明るいもので、どこが正面というようなデザインではなく、『裏側』というイメージはない」と説明されたが、仏教会の関係者からは「納得できない」との声が上がっていた。
「遺産桜」の意義と歴史的重要性をアピールしよう!
今回のミーティングでは、市当局も日系コミュニティからのアピールに対応しようとする姿勢を見せた。しかし、本当に「遺産桜」を守るためには、より広範囲の支援が必要であり、早急に善後策を実行して行く必要がある。今回の問題の根幹には、日系コミュニティの中でも、この「遺産桜」の重要性への認識が低かったことが上げられるだろう。この「遺産桜」を守ることは、「日本町」としてのパウエル街の歴史、日系パイオニアが果たしてきた功績、そして日系コミュニティの未来に深い関わりを持っている。
また、「連合会」がアボールテック・コンサルタント社に依頼して、「遺産桜」の状態を調査してもらったところ、7本の「遺産桜」(あけぼの桜5本、寒山桜1本)は樹木として健康であることが明らかとなった。報告書の中では、「これらの木々は公園の景観に大きな付加価値を与えるものだ」と強調されている。このことは、歴史遺産としての側面だけではなく、環境面でも「遺産桜」の担っている役割の大きさを物語るものだ。
今回の会合に参加した50人ほどの人びとの中からは、この「遺産桜」をきっかけにして、日系人の歴史や文化遺産、そしてバンクーバー市の歴史への関心を喚起し、桜の美しさへの再認識を含めた環境問題としてのアピールもしていくべきだという声が次々とあげられた。
なお、「連合会」では、「遺産桜」に関する詳しい情報や「連合会」の活動などについてのブログ( http://legacysakura.wordpress.com)を立ち上げた。「遺産桜」を支援する署名なども、このブログを通して行うことができる。次回のミーティングの日程などについてはこのブログを参照のこと。また、隣組(電話604-687-2172)へ問い合わせ可能。
(取材 宮田麻未 写真 神尾明朗)