MAPLE 2008

2008年6月12日 第24号 掲載
 

生涯忘れられない感動のカルチャー・クルーズ
  コロンビア三世号でブロートン多島海を旅する


 ブロートン多島海は、バンクーバー島の北部、ポート・マクニールの沖合に広がる無数の島々のことだ。氷河が通り過ぎた後に残された複雑な地形、深い森とコバルトブルーに澄みきった海。

ここは、何千年もの昔からクァクァキーウス族の人びとのテリトリー。カナダ政府が、かつて先住民の文化や生活様式を無理やり変えようとした時にも、ここの人びとはひそかに伝統を守り続けたという。いくつもの島々を船で巡りながら、先住民の奥深い文化に触れたり、カヤックで大自然の素晴らしさを体感したりする“マザーシップ・アドベンチャー”が、今、注目されている。決して安いツアーではないが、生涯忘れることのできない、深い感動を求める人には強くお勧めしたい。


すっかり贅沢な船に改造されたコロンビア三世号

コロンビア三世号の舳先で日向ぼっこ
 

 

先住民の知恵に触れるまれなチャンス


 カナダのファーストネーション(先住民)の人びとは、19世紀以降、ヨーロッパ系の人びとが持ち込んだ疫病や酒類、カナダ政府の同化政策などのために、人口も激減し、文化の伝承も危機に瀕していた。しかし、最近はファーストネーションの人びとが伝えてきた、「自然と調和して生きる知恵」や「究極のサスティナビリティに基づいた暮らし方」などが、一般の人びとの話題になってきた。

 世界遺産としても知られるハイダ族の島、クィーンシャーロット島をはじめ、カナダの西海岸には、ファーストネーションの豊かな知恵や暮らし方に触れることができる場所があちこちにある。しかし、礼儀と格式を重んじる人びとだけに、観光客がただ出かけていくだけでは、なかなか本当の“出会い”はできないだろう。マザーシップ・アドベンチャー社の「ファーストネーション・クルージング」は、中型の船に乗って離島を巡り、そこに住む人々に“正式に紹介”され、客人として迎えられるという非常にまれなチャンスだ。


静かな海を見守るトーテムポール

 

 ツアーの案内をしてくれるのは、アラートベイのウミスタ博物館の学芸員であるリリアン・ハントさん。アラートベイは、ポート・マクニールからフェリーで30分ほどのところにあるコーモラン島にある村だ。この村の人びとは、弾圧にもめげず、ひそかに自分たちの伝統を受け継ぎ続けたことで有名だ。そして、カナダ政府に没収されていた儀式用のマスクなどを島に返すようねばり強い運動を続け、ついに返還を実現した。ウミスタ博物館にはその思いの深いマスクが飾られている 。

 リリアン・ハントさんは、ブロートン多島海周辺のファーストネーションの中でも名門中の名門であるハント一族の一人。そのリリアンさんが礼を尽くして、各訪問先の集落を訪れるので、普段はほとんど外部の人を受け付けないコミュニティにも行くことができるのだ。クァクァキーウス族の歴史や文化、暮らしぶりなどについて、リリアンさんほど詳しい人は少ないだろう。説明も非常にクリアでユーモアにあふれている。


ファーストネーション・クルージング」に  同行してくれるリリアン・ハントさん



 今は人がいなくなり、廃墟となってしまったビレッジ・アイランド、それとは反対に離散していた人びとが島へ戻り、もう一度本来の暮らしを取り戻そうと努力しているニュー・バンクーバー島、海岸が真っ白になるほど貝殻に覆われ、かつては多くの人が暮らしていたことがわかる小島、そして力強く文化の復興運動が続いているアラートベイなど、それぞれのコミュニティが抱える問題や将来への希望を聞きながら、朽ち果てたトーテムポールや廃屋、または新しく建てられた村のロングハウスなどを訪れると、心の奥の方から揺さぶられるような深い感動が湧いてくる。


ウミスタ博物館に返還された儀式用のマスク



 このツアーは年に1度ずつ催行され、今年は6月28日から7月2日まで。日が迫っているが、まだ数人なら参加可能。


 

マザーシップに泊まりながらカヤック三昧


 ブロートン多島海やジョンストン海峡は、シーカヤックのメッカとしても世界的に有名なところ。船に宿泊しながら、通常ではなかなか行くことのできない場所でカヤッキングを楽しむこともできる。長期間のカヤッキングといっても、通常は一カ所にキャンプしながら、別々の方向に出掛けるくらいで、実際にカヤックで行ける範囲は限られている。しかし、船に宿泊するなら移動も簡単で、夜のうちに移動することもできる。もともとこの周辺は内海なので波は静かだが、夜の停泊地は特に静かな入り江が選ばれるので、寝心地も良い。


コロンビア三世号の客室



 コロンビア三世号は、かつては離島を巡ってキリスト教の伝道を行ったり、医療を行ったりするために使われていた。バンクーバー島やその周辺の離島に住む人々にとって、コロンビア号はさまざまな思い出に満ちた船。あちこちで歓迎を受けるのも、「私はこの船でやってきたお医者さんに助けられた」とか、「私はこの船の中の診察室で生まれたのよ!」などという人がたくさんいるからだろう。

 現在はすっかり内部も改造されて、とても居心地の良い船に生まれ変わっている。また、この船の人気の秘密は、オーナーのマーシャル夫妻の穏やかな人柄と、おいしい料理。エビや鮭など、とれたてのシーフードから、手作りのマフィンまで、食事の時間がとても楽しみだ。


毎日、変化に富んだご馳走が用意される



 カヤックのツアーは初心者向けの3泊程度のものから、グリズリーベアの住む温帯雨林の深い森を海から訪れる9日間のベテラン向きのものまで、いくつものコースがある。特に「グレート・ベア・レインフォレスト」のコースは、ベラベラというファーストネーションの村から出発し、グリズリーベアの住む森、そして神の使いと信じられている、神秘的な白い熊、スピリットベアと出会うチャンスもある。このツアーにも先住民の専門ガイドが付いてくれるので、森に住む動物や大自然にまつわる多彩な伝説などを聞くことができる。


だれもいない入り江をカヤックで行く



 それぞれのツアーの定員は8人程度なので、船内もゆったりと使うことができる。各客室はベッドが2つ備えられている。シャワーやトイレの設備も整っていて、一日カヤックをしても、夕食前にはすっかりリフレッシュできる。また、カヤックを一休みしてのんびり船内のダイニングルームで過ごしてもいいし、船の舳先近くで日なたぼっこというのも至福の体験。小さな島に上陸して、誰もいない浜辺で“プライベートビーチ”感覚で過ごすのもいいかもしれない。いずれにしても、毎年やってくるリピーターも多いというのも、不思議ではない。この旅は素晴らしい体験になることだろう。

(取材:宮田麻未 写真:神尾明朗)

マザーシップ・アドベンチャーに関する情報は
電話250-202-3229か、 http://www.mothershipadventures.com/へ。